第253話.夫婦の契り

 上位スキルが暴走しないようにモニタリングするのは対症療法でしかなく、原因の解決にはならない。何が原因でスキルの制御を失い暴走したのか、それを突き止めなければ同じことを繰り返すというのは理解出来る。


「だけど夫婦の契りって何なんだ?分かち合う事でスキル暴走を止めれるのか?」


『夫婦の契りを結べれば、スキル暴走を止めれるとは言わないけど、原因が分かる可能性は十分にあるわよ』


「でも急に、夫婦の契りと言われてもな···」


 アシスとういう世界の常識が分からない。夫婦や婚姻関係とは、どういう意味合いや効力があるかも知らない。


『そうね夫婦の契りは、契約の種類の名前だと思って。今はコアとは主従関係なんだから、それが対等な関係へと変わるのよ。あなたにとっても悪い話じゃないと思うわ』


 俺と精霊やコア達とは主従関係になる。俺が魔力やスキルを与える代わりに見返りが発生する。あくまでも俺が与える側になり、それが逆転する事はない。特に精霊や、名付けされたソースイとの関係性は絶対といっていい程に強い関係性となる。


 それが夫婦の契りとなると大きく変わる。俺が一方的に与える関係から、お互いが与え合う対等な関係へになる。元の世界での夫婦であったり婚姻関係とは全く違う、契約の種類の呼び名。

 その契約が成立すれば、喜びであろうが哀しみであろうが互いの感情を共有し、それに触れる事さえ可能になる。俺がなぜ暴走したのか、覚えていない記憶や深層心理にも触れれば、それはスキル暴走を防ぐ手掛かりなる。


「それは俺のスキル暴走を、コアにも共有させるって事だよな?」


『簡単に言えば、そういう事ね。あなたが制御出来なかった部分を、コアが受け取ってくれるだけでも、スキル暴走はし難くなる。それに原因を探るには、あなた自身の記憶に触れる必要があるわ』


「それは、一方的すぎじゃないか。そんな契約は、俺にだけメリットがあって、コアにとってはデメリットでしかない」


『そうかしら、エルフ族の抱えてきた秘密や闇も深いわよ。コアの知っているだけでも何百年もの秘密があるわ」


 そう言われれば、たかだか数十年しか生きていない俺と、数百年を生きているコアでは比べ物にならない。


『もちろん契約なのだから、お互いに対等でなければならないわ。それに契約のことは分かってるわよね、コア』


「はい、ムーア様。それなりの覚悟があります。それに夫婦の契りは、成立しない可能性の方が高い事も十分承知しております」


『それじゃあ聞くわ。まず夫婦の契りを交わすためには、コアは何を差し出すのかしら?』


「私の寿命ではどうでしょうか?」


『カショウの膨大な魔力に対して、長寿のエルフ族の寿命なら問題ないわね』


「何言ってるんだ、そんなのダメだろう。俺の押し付けられて持て余した魔力と、コアの寿命なんて釣り合うわけがない!」


「ご主人様、そんな事はありません。千年以上の寿命がある長寿のエルフ族にとって、数年程度の寿命は誤差の範囲内です。それに寿命を対価として精霊を召喚するのも、エルフ族としては一般的な方法ですよ」


 それならば、ムーアの言ったそれなりの覚悟とは何の事なのだろうか?


「それなりの覚悟って?」


『そんな目で見ないで。夫婦の契りで一番難しいのは、あなた達の相性よ!』


「俺達の相性?」


「はい、私達の相性が合わなければ、契約の契りは結べませんの···」


『だから、夫婦の契りって言われてるのよ』


 今さらながらに、覚悟の意味を知ってしまう。相性が悪いとなれば、今後の関係性も変わってしまう可能性がある。


 もちろん夫婦の契りには他の精霊達にも異論はないようで、半ば強制的に契約が行われる。夫婦の契りといっても格式ばった儀式はなく、ムーアが簡単な呪文を唱えると僅かではあるが俺とコアの魔力が抜き取られ、それが1つに混ぜ合わせられる。


 強ばっていたコアの顔がほころび、食い入るように左手の薬指に現れた指輪を見るつめている。


『コア、良かったわね。契約成立よ』


 そして、俺の指にも指輪が現れている。コアと相性が良いと言われて、嫌な気分はしない。しかし、周りの精霊達の目が気になる。


「コア、良かったね」


 クオンが、コアに声を掛ける。


「ありがとうございます。クオン様」


「ダメよ。もうカショウと対等な関係なのだから、様は付けないで。従属される関係も、ご主人様と呼ぶのも卒業ね♪」


「えっ、そんな···」

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