第217話.魔法の正体

 召喚されたハンソは、青いオークにぶつかる寸前で動きを止めて、空中で静止している。


 ピシッピシッ、バチバチッ、ドガッ


 ハンソからは色々な音が聞こえてくるが、こちらからでは何が起こっているのかは見えない。ただ青いオークが、全力召喚に対抗出来るだけの魔法をハンソにぶつけている事だけが分かる。


「ソースイ、ハンソは大丈夫なのか?」


「まだまだ、これからが勝負!」


 ソースイは召喚を解除するつもりはないらしく、さらに継続して魔力を込める。それが、ハンソは大丈夫という回答でもある。


 オークにダメージは与えられなくても、かなりの魔力を消費させる事が出来る。それに魔法が乱れ飛ぶ状況で、赤いオークも近付く事が出来ないで静観している。しかし、相変わらず笑みを浮かべた顔は変わらず、余裕だったり自信を感じさせる。


 そして少し時間をおいて衝撃波でなく、俺達に風が吹き付けてくる。それは、少しずつハンソが押され始めている事になる。

 全くの統制のない無秩序な風。真っ直ぐに吹き付ける風もあれば、カルマン渦のように渦巻く風もあるが、規則性は全く感じられない。渦もランダムに回転方向すらも変えて、上下左右から叩きつけるように吹き付ける。

 さらに熱風もあれば、凍える程に冷たい風も混ざり、中には静電気のように弾ける風もある。


「こんな、デタラメな風はどうやったら起こせるんだ?アシスではこんな風が普通に吹いてるのか?」


 魔法は術者のイメージで、どのようにも変化する。それが元の物理の法則に反しようとも関係なく、魔法では術者のイメージを再現出来る。だが物理の法則に反して想像する事は難しい。

 俺の場合も、熱力学の法則であったりベルヌーイの定理などイメージしやすい魔法は使いやすい。しかし、理解を超えるものはどれだけイメージしても、魔法の効果は大きく落ちてしまう。


 そして目の前に起こる現象は、俺の理解を大きく超えて再現されている。だからこそ、見て感じた風を再現しているのだと思った。


『流石にこれは普通じゃないわよ。全く起こらないとは断言出来ないけど、こんな事が起こるのはゴセキ山脈くらいよ!』


「じゃあ、この風は何なんだ?あの青いオークが、全てをイメージして引き起こしている魔法になるのか?」


 それだと脳筋だと思っていたオークが、俺以上の魔法に精通している事になる。野生的で知的なものを感じさせないオークだけに、多少なりとも衝撃を受ける。そしてアシスでは、俺の知性はオーク以下なのか···。


『残念だけど、それは否定は出来ないわね』


 ハッキリとムーアは断言しない。それはオークの魔法がムーアの想像を超えている事もあるし、それを認めたくないという気持ちも強いのだろう。


「ガッハッハッハッ、俺様が教えてやろう」


 ここでイッショが、自慢気に口を出してくる。魔力吸収スキルを扱うようになって、今では怒りの精霊という印象は薄い。

 好き嫌いや向き不向きはあるのだろうが、イッショは基本的に何でもコツコツと努力して積み重ねてゆくタイプで、本来の怒りの精霊のイメージとはかけ離れている。ただ少し口が悪いところだけが癇に障るが、努力する姿を見ているだけに、周りの精霊はイッショの言う事を信頼して聞いている。


「無理して怒りの精霊っぽくする必要はないんだぞ。イッショが努力しているのは皆知ってるから」


「俺様は努力なんぞしておらん。これは類い稀な才能でしかない。天才の前に努力という言葉は存在せんのだ!」


「それなら、まだ仕事を増やしても大丈夫···」


「待て、今そんな話をしている場合じゃないだろ。あのオークの放つ魔力は1つではない!」


「どういう事なんだ?ナルキみたいに複数の集合体になってるのか?」


「それは違う。この風魔法にはカショウのウィンドトルネードも混ざっているんだからな!」


「何で俺のウィンドトルネードが使える?どうして?」


「そうじゃない。オークは魔法を行使していないんだ。それにカショウだけじゃない。ウィプス達のサンダーストームも混ざっている!」


「赤いオークの傷が消えて、代わりに青いオークが傷付く。そして俺とウィプス達の魔法を放つ···。魔法を反射したのか?」


『イッショ、カショウとウィプス達の魔法だけじゃないんでしょ』


「そうだな、こっちに流れてくる魔力だけでも10以上は感じられるぞ!」


『それならば、魔法を体内に蓄積して放出たのよ!』

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