第215話.咆哮

「ガハッ、ガハッ、ガハッ」


 ウィプス達の攻撃では苦しむことのなかった赤いオークが、ウィンドトルネードを吸い込んだ途端に苦しみ出す。


 ウィンドトルネードを吸い込んだ瞬間は、オークの体の回復が加速する。サンダーストームで皮膚が焦げる事すらも確認出来ない。それ程に回復効果が高まり、オークの吸収スキルの前では俺のウィンドトルネードも通用しない。

 罠と知っていて強引に正面突破しようとすれば、間違いなく返り討ちにあっていただろう。それほどまでに、オークの吸収スキルの性能は高い。


 そして、俺の実力を肌身で感じたオークは、一気に勝負を決めようと大きく歩みを進めようとしたが、それと同時に体にも変化が起こる。

 体が感電したように震え、思い通りに体が動かせない。そして、焼け焦げた皮膚は回復せずに、どんどんとドス黒く変色してゆく。遂にサンダーストームが、オークの体へとダメージを残す。


 そこで初めてオークは異変の原因が、ウィンドトルネードだと気付く。吸収してはダメだと感じて、必死に逸らそうと試みるが痺れる体が思い通りに動いてくれない。

 自ら吸い込んだつもりでいたのだろうが、ウィンドトルネードは俺にコントロールされている。しかも途切れずに際限なくウィンドトルネードが大きく開けた口に流れ込み、口を閉じることさえも出来ない。


「どうだ、俺の魔力の味は!」


 オークを真似して、少し笑みを浮かべてみる。オークにアシスの言葉は通じないが、それでもこの状況で何を言われているかは大体想像がつく。

 俺の言葉に対して、睨むような目付きが返ってくる。


「そんな顔するなよ。まだまだ、メインディッシュはこれからなんだから」


 バーレッジにより細かく分裂したダイヤ型のマジックシールド。幅が5㎜もない小さな欠片は、ウィンドトルネードに乗ってオークの口内や体の中に入り込んでいる。

 最初はウィンドトルネードの魔力は吸収されて威力は減衰してしまうが、マジックシールドの欠片は吸収されることなくオークの口内に突き刺さるようにて張り付き、オークの吸収スキルを阻害する。


「バーレッジ」


 そして、マジックシールドは1枚だけではない。もう1枚のマジックシールドが、紙吹雪のように散ってウィンドトルネードに吸い込まれる。それから逃れようともがくが、体はサンダーストームによって自由を奪われ、抵抗する事なく欠片がオークの体の中へと流れ込む。


 オークの口内をマジックシールドの欠片が埋めつくすと、吸収スキルの効果が落ちウィンドトルネードは勢いを取り戻す。そうすると、口内に刺さった欠片が再び巻き上げられて、再びオークの体の奥を目指して侵入してゆく。


 オークの苦悶の表情は増すが、痛みに負けてさらに吸収スキルを弱めれば、今度はウィンドトルネードが顔面を吹き飛ばしてしまう。

 しかし必死に抵抗しても、吸収スキルの効果はゆっくりと落ち続ける。


 ジリッジリッとオークが後ろに押し込まれ、ウィンドトルネード自体が影響を与え始める。


「さあ、これがメインディッシュだ!」


 今度は欠片ではなく、マジックソードをウィンドトルネードに吸い込ませる。


「ヴオオォォォォーーーッ」


 その時、後ろから青いオークの雄叫びが聞こえる。青いオークが何かを仕掛けようとも、精霊や仲間達がフォローしてくれる。だから、躊躇わずに赤いオークにトドメを刺しにゆく。



 マジックソードが、ザクッと何かを貫いた手応えはあった。だが貫いたのは、ウィンドトルネードを遮るように前にかざした赤いオークの両手。切っ先は赤いオークの顔の寸前で止まってしまい、それ以上は先へと進まない。


 さらに魔力を込め、ウィンドトルネードの威力を制御出来る限界までに引き上げる。しかし、切っ先はそれ以上はオークに近づく事はなく、ウィンドトルネードを正面から受け止めた赤いオークは後方へと大きく弾き飛ばしてしまう。恐らくは、致命傷を与える事は出来ていない。


『見て、青いオークの方が傷だらけになってるわよ』


 赤いオークがいなくなり目の前に現れた青いオークは、膝をつき両手で頭を抱えている。全身は焼け焦げてボロボロになり、口からは大量の血が溢れている。


「何が起こったんだ?青いオークには何もしていないぞ。ナレッジ、何があったか見ていたか?」


「青いオークが何かを叫んだだけで、何もしていないよ」

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