第164話.紫紺の刀

 ワームの魔石を探して、鬼ごっこが始まる。ワームの攻略法が見えたところで、関心はワームの魔石がどこにあるかという話になってしまう。


 この洞穴の中では、巨大なワームが襲われるのは前か後ろからしかない。細い横道があっても、触手が放つ酸とオネアミスの毒で塞ぐことが出来る。

 そうなれば、ワームは魔石が少しでも危険を避ける為に、中央に置くだろう。それに、長く成長しすぎた体を動かすには、やはり体の中央に魔石がなければならないだろう。

 しかし、魔石の位置も自由に変えている可能性もある。


「体を分裂させて、切り捨てるくらいだから、魔石の位置が後ろに下がってるかもしれないな」


『そうね、その可能性はあるわ。だけど、あの暴れ方なら意外と近くにあるかもしれないわよ。離れてしまえば、あれだけ激しく動けないと思うわ』


「魔石がある事を想定して、加減は必要か。」


 そしてワームは、ハンソに重石を置かれた場所から体を切り離した。簡単に切り離す事が出来て、100mくらいは消滅が始まっている。

 また切り離した以上にワームの魔力の落ち込みは激しいようで、単純に切り離した分がそのまま能力低下するわけではなさそうだ。


 だからなのか、一旦逃げ出すと決めたワームが反撃をしてこない。落ち込んだ魔力は、触手の数や作り出す酸にも影響を与えるのかもしれない。


 その代わりに、ワームは口を閉じ激しく体をくねらせて、俺達が体の中へ侵入するのを防ごうとする。


「カショウ様、私どもヴァンパイアにお任せ下さい」


 ダメという理由もないし、“私ども”と複数形になっているのが気になる。フォリーだけではなく、ダークも絡めて何かしたいのだろう。ブロッサの進化が、精霊達にもイイ刺激になっているのかもしれない。


「ああ、分かったよ」


「それじゃあ、マトリ始めるわよ」


「はい、姉さま」


 そこで出てきた名前は、予想外にもマトリ。そして俺の陰から紫の刀が2本出てくる。


「ダーク兄さん、これを!」


「フォリー、これは何なんだ?」


「これは、マトリがつくった紫紺の刀にございます」


「そんな事をフォリーが出来るのか?」


「はい、マトリが得意なのは魔力操作。カショウ様の無属性魔法も、基本は魔力操作になります。カショウ様の魔力操作を手伝っていく内に、物質化魔法の真似事を出来るようになりました」


「この紫の魔力は、フォリーのシェイド?」


「はい、私のシェイドとカショウ様の魔力を混ぜ込んであります。そうすれぱ、光のある場所でもシェイドを維持出来ますので」


「そんな事が出来るのか···」


 俺の知らないところで、精霊達も成長しているし努力してくれているのは嬉しい。

 ヴァンパイアの中でもマトリは、力も能力も弱かったはず。そして、これは俺の真似事ではない。


 どうやったら、こんな事が出来るのか···俺は分からない。俺が出来ないのなら、それはマトリのオリジナルでしかない。


「カショウ様と、我らヴァンパイアの相性は良いので、まだまだ出来ることは増えるかと思います」


「そっ、それは頼もしいな」


 と何とか言葉を振り絞るが、まだ他にも何かありそうな雰囲気が怖い。ブレスレットの中も俺の影の中も、精霊達の事は気配程度しか分からない。

 ブレスレットの中は、力を失った精霊が多いから大丈夫だろうが、影の中は放置しておくと危険かもしれない。

 今度ムーアにそれとなく探りを入る必要があるが、率先しているのはムーアの可能性がある。


「何、ぼっとしてるの?ダーク兄さん!」


「はっ、はい」


 慌てて、ダークがマジックソードから紫紺の刀へと持ち変える。何度か紫紺の刀を振るうと、ワームへと向かって行く。

 そして、残されたマジックソードは、ちゃっかりナルキが回収している。



 体をくねらせて暴れるワームは、近付くものを弾き飛ばし押し潰そうとする。

 しかし紫紺の刀は簡単にワームの体を切り裂いてしまう。刀で切るだけでなく、振るった瞬間にフォリーのシェイドが発動する。だから、多少離れた距離からでも攻撃を当てることが可能で、面白いように切り刻まれゆく。


 ここまでの状態になれば、ワームの口から中に入る必要はなく、切り刻まれた穴から容易に侵入出来る。


 再びハンソをウィンドトルネードで中へと送り込み同様の事を繰り返すと、何度目かの分裂で遂に青く輝く魔石が見えてくる。

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