第153話.潜む魔物

 リッターが増えるほどに、カマ精霊の中の影は激しく暴れまわり、毒以上に光を嫌っている。周囲をリッターに囲まれて、影になる場所はどこにもない。

 さらにミュラーの金属盾がカマ精霊の後方に回り込み、リッターの光を反射させる事で光を集める。影が激しく暴れ、カマ精霊の身体が跳ねるように不自然に動く。


「我慢比べヨ。あなたの矜持を見せなさい。ここで負ければ、あなたは所詮そこまでの存在でしかない!」


『そうね、イッショを馬鹿にしたんだから、これくらい耐えてみせる事ね』


「うっ、さい。わっ、て、よ」


 依然としてカマ精霊の身体の消滅は続いているが、中の影も薄くなってゆく。光はカマ精霊には影響を与えずに、中の影だけの力を弱める。それでもブロッサは一切の手加減をするつもりはないらしく、ポイズンミストを解除しない。

 そしてカマ精霊も、自分の意思とは関係なく異様な動きを見せる身体に、違和感を感じとったようで、ブロッサとムーアの言葉に少し反応する。


 それぞれの存在をかけた我慢比べで、耐えきれずに先に影が動く。カマ精霊の存在がさらに薄くなることで光の強さが増し、カマ精霊の中に留まる事が出来なくなる。一番光の少ない場所を探し出して、そこに向けて飛び出すが、そこには俺やブロッサが待ち構えている。


 カマ精霊から黒く痩せこけたガリガリの男が飛び出してくるが、飛び出して外に出た瞬間に、嵌められた事に気付いたようだ。


「やっぱり、潜んでいた魔物が原因ネ」


『精霊にも取り憑くなんて、図太いレイスよね』


 レイスは怒りの表情を見せるが、呪詛を吐くには、毒と光で力が弱められすぎている。それを、俺の精霊達は黙って見ていない。


 ウィプス達のサンダーボルトが、飛び出してきたレイスの身体を押し止め、胸に大きな穴を開ける。魔石を露になると、間髪を入れずにダークのマジックソードが襲いかかる。


「チキショー」


 甲高い叫び声が響き渡るが、そこには呪詛の欠片も感じさせないただの負け惜しみの言葉でしかなく、魔石が砕けるパキンという軽い音を搔き消す。

 魔物がどんな姿形をしていようが、実体があろうがなかろうが、キラキラと煌めいて姿が消えてゆく。実体はないはずなのに、レイスの煌めきは長い。


『カマ精霊に見えていたのは、レイスの姿なのかもしれないわね』


「自分の姿だけ見ることが出来なかったから、そうに違いないワ」


 そしてレイスが消えた瞬間に、スケルトン達は洞穴の奥へと向かって一斉に逃げ出す。何かを引き連れて戻ってくるかもしれないが、今さら追いかけても止めれる数ではない。逃走するスケルトンを横目に、改めてカマ精霊に向き直る。

 ブロッサのポイズンミストは解除されたが、カマ精霊の身体の色は薄くなり続けている。このままならば、ヒト型の精霊であり続けることは難しいだろう。それを分かってかカマ精霊も仰向けに寝転び、目を閉ざして成り行きに身を任せている。


「もう諦めたノ。あなたの矜持も体したことナイ」


『自分の手を見てみなさい。それがあなたが望んだ姿でしょう』


 ブロッサの言葉は無視しようとしたカマ精霊だったが、ムーアの言葉で薄らと目を開ける。そして、ゆっくりと手を持ち上げる。

 声にはならないが、カマ精霊の目はハッキリと見開かれている。


『見えたかしら、それがあなたの本当の姿よ。それで諦めるなら、好きにしたらイイわ。これ以上私達はお節介はしないから』


 いつもならムーアは強引なくらいに契約の話を持ち出しすが、今回はカマ精霊を放置してこのまま先に進む素振りを見せる。


「いつものムーアらしくないけど、このままで大丈夫なのか?」


『少し気が変わったわ。こんな事で諦めるなら、後々も足手まといにしかならない。どこに行っても精霊樹に手を出した精霊と言われるのよ。生半可な覚悟しか出来ないなら、カマ精霊なんて必要ないわ』


「ちょっと待ちなさい。それは納得出来ないわ。生半可な覚悟でカマ精霊なんて出来ないわよ!」


『力を失っているあなたと契約しても、漸くはただのカマ精霊よ。それでも大丈夫なの?』


「ただのカマ精霊を舐めんじゃないわ。あたしの凄さを見せてやるわよ!」


「タダノカマセイレ、イイ名前ネ」


「えっ、それって、あたしの名前なの?」


『カショウが名付ければ、契約成立ね!』

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