第137話.世話焼きの精霊
「キマイラに2回ほど助けられまして・・・」
「えっ、2回も?」
ダビデの告白に驚きを隠せない。何故2回も助けられるのか?それも、2回“ほど”になるんだ。意味はなく使った言葉かもしれないが、“ほど”にダビデの人となりが感じられる。
それはどちらかといえば残念な印象でしかない。そう思うと、ソースイやホーソン、チェンはクセはあるが優秀な仲間だと感じる。
「1回目は不用意に魔樹の森に侵入して、方向が分からなくなり、2回目は・・・」
そこで、言葉を詰まらせてしまう。エルフとしての自尊心だったりプライドが邪魔をしているのかもしれない。
「今さら隠しても、その格好ならだいたい想像は出来るけどな」
「あ、はいっ、そうですね。キマイラの言葉を無視して、あなた達を追いかけてまして・・・再び迷いました。キマイラに最初に来た場所まで追い返され・・・。幸いにも向かった場所は教えてもらったので、魔樹の森を迂回して追いかけました」
キマイラの言葉を無視したという言葉にムーアとガーラが反応する。
『上位精霊キマイラの言葉を無視したのね。あなたはエルフ族なのだから、その事の意味が分かってるかしら?』
「エルフ族変わった。やり方高慢」
冷たく問いただすムーアに、嫌悪感を隠さないガーラ。珍しくあからさまに表情に出しているので、かなり怒っているのは分かる。エルフ族ならこの2人とは相性は良さそうなはずだが、ダビデとの相性は最悪といって良い。
確かに魔樹の森を護るために創造された精霊の足を引っ張るのだから、手前勝手と取られても仕方がない。俺としても考え方はムーアやガーラ寄りなので、あえて俺が間に入る必要はない。
沈黙が流れる。問いただす精霊に、どうしたらよいか分からずにまごまごするエルフ。
「岩峰に戻ろうか?ガーラとナルキに出会えたなら、結果としてはもう十分じゃないか。レーシーが出てきても近くには魔樹の森があるから、キマイラが何とかしてくれるだろし、話だけしておけば大丈夫だろ」
上司が一方的に部下を叱責しているような雰囲気で、少し虚しさを感じる。これから何かが起こる事は期待出来ないし、話の中から新しい価値観が生まれることはない。
「みんな、どう思う?」
「ソウネ、薬草モ沢山採レタ」
「僕たちの力を盗み見して品定めする奴らだからね!」
「ボクの事は気にしないで大丈夫。どこに向かうかはカショウに任せるよ」
“もうこれ以上はない”
するとボロボロだったダビデの服が、揺らめき始める。ゆっくりと風が巻き起こり、ダビデの前に女の精霊が現れる。髪や服だけでなく手足も揺らめき、うっすらと姿が透けて見えている。
ダビデの召喚精霊であろうシルフだが、召喚することなく現れるのは繋がりが強い証しになる。
「残念なエルフなの。だけど、ほっとけない存在もいるでしょ」
まごまごとしていたダビデとは違い、スパッとダビデの評価を認めて言い切ってしまえる潔さが、清々しくも感じられる。
『繋がりが強いわね。それなら、あなたにも名前はあるんでしょ?』
「わたしの名は、ディード。風の精霊シルフのディードよ」
『ダビデから出てくるとは思えないイイ名前ね』
「ありがとう、名付けだけはセンスがあるわ」
『ダビデの事はがディードが世話を焼いてるの?』
「ええ、そう取ってもらってもイイわ。ダビデに付き合う精霊は私ぐらいだから」
『それじゃあ、なぜ魔樹の森でダビデを止めなかったの?キマイラに助けを求めたのはディードなんでしょ』
優秀な精霊っぽく見えるが、ダビデは失敗したらこうなるという見本の様な姿をしている。
「ダビデが望むなら、私は止めない。経験して覚える事もあるでしょうから」
『失敗する事が分かっていても、それでも止めないのかしら?』
「キマイラを本気で怒らせれば、もう死んでいるわ。それにあなた達に追い付いているから、失敗した事にはならないでしょ」
『それならディードも聞いてたでしょ。カショウはフタガの岩峰に戻るかもしれないわよ』
「だから、私がお願いしに出てきたの。ダビデに先導させて、クオカに行って欲しい」
『大した自信ね。その気概は嫌いではないけど、一つ間違えれば相手を怒らせるわよ』
「その心配はしていないわ。あの方は精霊樹に導かれてきたのだから」
そしてダビデ以外の視線が俺に向けられる。
「急に振られてもな」
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