第110話.フタガの領主
ハーピークイーンの魔力吸収の件も目処が立ち、イッショの目覚ましい復活劇には驚かされもした。
「俺様は最強ーーーっ!」
最後に叫びながら力尽きた精霊がいたらしいが、俺には聞こえなかったと思う。
限界の向こう側を見つけて一皮剥けたなら、結果的にはイッショも喜んでくれていると思う事にする。
少しだけ休息の時間をつくり、次の計画の算段をしていると、チェンが客人を連れてくる。流石にイスイの街と全く連絡を取らない訳にはいかないので、そこはチェンにお任せしているが、若干ムーアが悪知恵を働かせているが・・・。
俺自体が敬遠される存在ではあるが、一部では接触して関係を持ちたい者いるのだろう。チェンの立場も強い訳ではないので、断りきれない場合もある事は理解している。
「ムーア姐さん、蟲人族からの客人でさぁ」
部屋に入って、まずムーアに声を掛けるチェンの舎弟っぷりが、随分様になってきている。たぶん、契約主が俺であるという事は忘れられている気がする。
そしてムーアが頷いて合図を送ると、チェンに連れられて1人の蟲人が現れる。カブトムシのような1本角がある蟲人族で、異世界の年齢は当てにはならないだろうが壮年くらいだろう。
身なりは良く、装備している武器や防具は派手さはないが、それなりに高価なものだとは分かる。
「こちらが、カショウの旦那でさぁ」
「初めてお目にかかります。私はバッファ。此度は、カショウ殿のお陰でイスイの街が救われた事に礼を言うため参りました」
そう言うと深く頭を下げるバッファ。
「ちょっと待ってくれ。情報を知らせただけで、後は自分の為にやった事だぞ」
精霊化している俺には召喚出来る精霊が必要で、そうでなければ消滅してしまう存在である事を改めて説明する。
「そう言われると思っておりました。しかし、多くの領民が救われた事に間違いない事実です、これは私の気持ちの問題ですので」
少し身分のある立場にいるのだろうが、蟲人族の事もイスイの街の事情にも疎いので、どの様な人物なのかは想像も出来ない。
「私的な話はこれまでで、後は公的な話をさせてもらいます」
「それは、俺が関係する話になるのか?」
「バッファ様、そんな話聞いてねーでさぁ」
急な話の転換で警戒心だけが高まる。相手がどんな立場なのかも分からないが、ただチェンが様付けで呼び警戒せずに連れてきたのだから、何かが起こる危険は少ないのかもしれない。
「私はイスイの領主バッファ。ただ私的にカショウ殿にあって話がしたいと、チェンにここへと連れてきてもらったが、それに嘘はない!」
公的となった瞬間に、バッファの口調も変わり身体からは威圧するような雰囲気も感じられる。それにも怯まず、公的には蟲人族の護衛隊の一員で、私的には俺と契約する関係にあるチェンが抗議の声を上げる。
「だけど公的な話するなんて、聞いてねーでさぁ!」
「そうだ。カショウ殿に直接は関係ない。チェン、お前の話だ!しかし、カショウ殿に直接会って話した方が良かろう」
「へっ、俺の話で?」
「そうだ、フタガの領主チェンの話だ!」
「フェッ?」
「チェンの面白い顔が見れたからイイけど、あまり駆け引きとか面倒臭いの嫌いなんだがな」
不機嫌な顔を隠さない俺に、バッファが少しだけ慌てるように説明する。今回のハーピー討伐にはチェンも関係している。そして討伐後も、俺の仲間のように行動を共にしている。
ハーピーを討伐したにも関わらず、帰属しない事を命令違犯だと言う者もいれば、呪われの迷い人に遣われているなら触れないでおこうという者もいる。
「それでチェンはどうなるんだ?ハーピー達相手に、命懸けで戦った功績はあるじゃないか?」
俺の問いかけに、バッファはチェンに向き直り静かに告げる。
「チェン、お前をフタガの領主に任ずる」
もう驚きの声も出ないチェンは、ぽかん口を空けている。返事をしないチェンに追い討ちを掛けるようにバッファが続ける。
「フタガの領主の役目は、まだ生き残っているハーピーよりフタガの岩峰一帯を護る事の1点のみ。ここで護ろうと外に討伐に出ようと、領主の好きにして構わん。良いな!」
返事の言葉の出ないチェンが、コクコクと頷く。
「カショウ殿、これで良いかな?」
「本当に俺の意見を聞く気があるなら、チェンを領主に任命する前に聞くんじゃないか?」
「悪くはない話だと思うが、他に方法はあるかな?」
「分かりやすく言うなら、好きにしてイイんだろ?」
「ハーピーより、このフタガの岩峰一帯を護れればな」
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