第97話.ゲリラ戦③

 日が昇るまでに結界を破壊する為、タカオ側の石峰を目指す。次の結界にもハーピーがいないという事が前提になるが、その可能性は高いはず。霧の精霊達の案内に従って、最短距離を走る。


『あんな事、言って良かったの?』


 ムーアが聞いてくるのも良く分かる。


「ハーピーを引き連れてこいってやつか」


『そうよ、あなたのいない所で勝手な行動とらせて大丈夫なの?』


「成功しても失敗してもハーピーと戦えるから、明け方までは我慢して待ってくれるだろう。今後、ソースイ達と別行動する機会は出てくるだろうから練習みたいな感じかな」


『そんなので良かったの?』


「状況に応じて判断させるより、どんな状況でも似た事をさせるほうが失敗しにくいだろ。こっちも起こる結果や対処法方を考えやすくなるしな」


『あなたの思考回路も、あなたを育てた世界もひねくれてるわよ』


「育てたのは元の世界だけじゃないけどな」


 意味深な呟きにムーアが突っ込みたそうにするが、岩峰が見えてくる。そして、岩峰は月明かりの浮かび上がる程度で、明かりは見えない。

 クオンの探知にもかからないが、それでもゆっくりと頂上に近付き、少しずつ結界が見えてくる。明け方までには、もう少し時間がある。


「何とか、間に合ったな」


『すぐに破壊するの?』


「ブロッサ、ワームの麻痺はそろそろ解けそうか?」


「モウ大丈夫ナ頃」


「それじゃあ、さっさと破壊してソースイ達と合流するか」


 ダークの操るマジックソードが鎖を断ち切り、フォリーのシェイドが石柱を砂に変える。


 ゴゴゴゴォォォーーーッ


 地面が振動し石柱が倒れ、ワームの牙が飛び出してくる。前に見たのはここまでで、これから先がどうなるかは見ていない。

 結界内の地面が凹み、急激に深さを増して行く。倒れた石柱も凹みの中央へと流され、そして飲み込まれてしまう。


「もしかして結界の証拠隠滅か?」


 そんな俺の呟きを掻き消すように、轟音と共にワームの口が閉じて土煙が舞い上がる。そして地中に埋もれた体が飛び出してくる。


『下品な音だけど、戦い開始の号砲ね』


「そうだな、ソースイ達が張り切り過ぎる前に戻るか」


 獲物を探して体をくねらせるワーム。大きな口を開け閉めして、食べれるかどうかは関係なく触れるものを吸い込むだけの魔物。

 気配なのか匂いなのかは分からないが、何かを感じ取り、こちらを向くワームを横目に岩峰から飛び降りる。これだけ派手に騒いでくれれば、必ずハーピー達にも伝わるはず。


「ソースイ達は上手く見つかってくれるかな?」


『それ、変わった心配よね』


「だってそうだろ。イスイとタカオの街に近い結界が同時に破壊された後に、ドワーフ族と蟲人族・オニ族が、揃って岩峰地帯に現れたらどう思う?」


『そうね、ドワーフ族と蟲人族が繋がってるって疑うかしら』


「それだけで、ハーピーが動揺したり、迂闊には動けなくなるだろ」


『ドワーフ族に裏切られたと思って、タカオの街を襲ったらどうするつもり?』


「次は裏切った相手を襲うだろな。その間に俺達はハーピークイーンを狙えるなら一気に終わる可能性も出てくる。だけどソースイ達なら、派手に見つかって派手に暴れるだろうけどな」


『否定出来ないから、早く向かいましょう』




 夜明け前に、ワームが結界を喰らいつくす轟音が響く。この音は、ソースイ達やハーピー達の耳にも届く。

 夜が明けと、イスイ側とタカオ側の岩峰から立ち上る土煙が異変があった事を肯定する。

 そして、南から西エリアの岩峰からハーピー達の群れが飛び立つ。


 かなり距離のある位置ではあるが、それをチェンが確認する。


「ハーピー達が出てきやしたね!」


「カショウ様の破壊工作が成功して、ハーピー達も読み通りですね」


「そしたら、こっちも作戦始めやすか!」


 そして、あくまでもハーピー達の引き連れてくるのが目的なのだが、黙々と戦闘準備を始めるソースイ。そして、それは3人の共通認識でもあるようで、指摘する者は誰もいない。


「まず、あっしが見つかったフリをして連れきやすよ」


「合流地点までに、徐々に距離を詰められて下さいね。危なそうなら私が援護します」


「任せとけって!」


「ソースイ殿は、なるべくジェネラルを狙ってグラビティで地上に落として下さい」


「了解した」


 ソースイが短い言葉を残して合流ポイントに移動を始め、それにホーソンが続く。チェンは岩峰の影に隠れ、ハーピーが近付くのを待つ。

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