第95話.ゲリラ戦①

 もうすぐ夜になるが、戻ってくるハーピーもいないし明かりも見えないので、岩峰地帯から外に出ているハーピー達はいない。

 最初に壊した結界が、ハーピーに異変を感じさせて少しでも警戒し岩峰に留まってくれたのなら良かったと思う。


「カショウさんは、何で知らない俺らを助けてくれたんすか?」


「襲われてたから、」


『違うわよ、この人がお人好しだからよ!』


 俺の喋ってる途中でムーアが割り込んで、最後まで喋らせてくれない。


『オニ族とドワーフ族にも首を突っ込んでるのよ。多分、トラブルを引き寄せる体質なのね』


「トラブルを引き寄せる精霊を引き寄せる体質だと思うけどな」


 と言ってみたけれど、実際はどうなのだろうか?オニ族にしてもドワーフにしても、好きで助けたわけではない。正確には“助けた”よりは“行動してしまった”が正しい。

 助けるというのは、ある程度の強さをもった者のする事で、アシスに来たばかりの俺には当てはまらないだろう。

 これが、100対100と数では互角であったなら関わっていない気がするし、今回は3対100なら3の蟲人と不利な方に加勢してしまった。

 これが逆転して3体の魔物だったらどうしたのだろうかと考えると、また思考が迷走してしまう。


 そんな事を考えている一方で、ムーアはチェンに色々な話をしている。

 契約により俺達の事を他言する事は出来ないが、憶測や推測であれば問題ない。俺達を知れば知るほどに、契約に縛られる事になる。


 そうしている内に、街道は再び岩峰地帯に入る。足場が多くなり次第に霧が立ち込め、ここまで来れば逆にハーピー達から隠れる事が出来る。


「どうしやすか?」


 いつもならムーアが聞いてくる事を、今回はチェンがしてくる。ムーアが後ろで腕を組んで目を閉じている姿で、親分子分の関係が出来始めているのだど感じる。


 そして、これからする事はゲリラ戦になる。俺達にしか出来ない事を効果的に効率的にやる。


 最初の目的は、ハーピーをポップアップする結界を破壊する事。使い捨てに出来るほどのハーピーやハーピーキャプテンがこの岩峰地帯に潜んでいる。まずは、ハーピーの増殖を止めるのが最優先になる。

 シナジーの話では結界は全部で12箇所あり、岩峰の頂上に結界が作られている。これをハーピーが活動しなくなる夜間に行う。

 リズとリタの翼で空を飛べる事、シナジーにより強化された気配探知でマジックソードの操作範囲が広がった事、勿論ダークの技量や夜行性で夜目が利くブロッサなど、夜間の工作活動が成功する可能性は高い。


「それじゃあ、あっしら夜目の利かない者の出番がないんすか?」


「カショウ様、それでは飛べない者は留守番になってしまいます」


「次は結界を見せてくれると約束したはずです」


 ソースイにホーソン、チェンの出番が無い事に抗議に近い声が上がる。石柱の結界や戦える事をモチベーションにしていただけに、ソースイとホーソンの落胆は大きい。


「最初の目的って言っただろ。最後まで聞いてから言ってくれ!」


 まだ続きの話がある事で少し大人しくなってくれる3人。


「今はハーピーは飽和状態で、結界は使っていないんだ。だから捕らわれている精霊もいないはず。それなら、稼働出来ない程度に破壊すれば良い」


「結界は完全に破壊しないのです?」


「ワームは倒さないんですか?」


「そうだ、結界を完全破壊しないし、ワームも倒さない。少しでも結界を守る為に、ハーピーが戦力を分散させてくれればイイ。そして次は3人の出番だ」


 その言葉で俄然モチベーションが回復する。

 次の目的は分散させたハーピーを倒す事になるが、それもハーピージェネラルを倒す事になる。

 上位種を倒せば下位のハーピー達の統制は取れなくなるが、それだけが目的ではない。本当の目的は、ハーピークイーンを運ぶ存在をなくす事。


『どういう事なの?』


 これには、今まで黙っていムーアが食いついてくる。


「ジェネラルが3体がかりでクイーンを運んでただろ」


『下位種はハーピークイーンを運べないの?』


「身体を直接掴むなら、無理なんじゃないか?飛べてもハーピーの体力が持たないし、2・3体が倒されたら墜落するようじゃダメだろ。そうすれば、岩峰の上のハーピーになる」


『面白い考えだけど、ジェネラルを狙うって、そんなに上手く行くかしら?』


「だって、チェンがいるだろ。タカオの街でドワーフもオニも悲惨な状態だったし、何とか誘い出せるんじゃないか?」

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