第73話.最奥での戦い③

「ライトニング・メテオ」


 オルキャンの発した魔法に驚き、咄嗟に身構えるが、その時はもう閃光に包まれている。


 眩しい・・・しかない。だが、他に何も変わらない。ここが既に天国というわけでもない。

 これが、ライトニング・メテオになるのか?光の流星による広範囲の攻撃魔法で、光属性でも上位魔法になるはず。


「なぜ効かない、お前達は何者だ!」


 オルキャンの髪の毛が逆立ち、目が見開かれ、額の魔石が輝き始める。


「ライトニング・メテオ」


 もう1度オルキャンが呪文を唱えるが、やはり前と結果は同じ。効果音を付けるなら、“パシャリ”。カメラのフラッシュ程度の光が出ただけ。


「ギョオオオオッッッーーー!」


 オルキャンの顔が歪み、苦しみ始める。咆哮ではなく叫び声なのか?

 ライトニング・メテオには少し拍子抜けしたが、この変化に危険を感じる。


 俺が合図を送ると同時に、ウィスプ達がサンダーボルトをオルキャンの顔面に向けて放つと、顔面が弾け後方へと吹き飛ぶ。神剣はオルキャンから解放され、オルキャンから逃げるようにと更に後方へ落ちる。


 吹き飛ばされたオルキャンは、顔面の火傷やキズよりも神剣が無いことに慌てふためいている。

 サンダーボルトが直撃した事で、目が見えているかどうかも分からないが、顔の火傷やキズの痛みも気にせずに手探りで音のした方向に這いつくばっていく。


 俺達に背を向ける事に何の迷いも感じられない。そしてオルキャンの背中に見えるのは・・・。


 羽織った金色のマントには、オルキャンの顔がでかでかと刺繍されている。


『精神的ダメージの方が大きいわ』


「キット、コレガ狙イヨ!」


 ムーアとブロッサの追撃を止めたから、確かにマントの効果はあった事になるが、それにずっとは付き合わない。


「ファイヤーボール」


 オルキャンの背中が燃え上がる。それにも気付かないのかオルキャンの動きは止まらない。意地で神剣まで辿り着くと、再び神剣を手にする。

 そして振り向いたその顔は、オルキャンの面影はどこにもない。皮膚が崩れ落ちコボルトの顔付きになり、魔石の輝きは増している。


「我はコボルトの王、魔石を壊してくれ」


「余はオルキャン、この世界を支配する者」


「コボルトに安寧を!」


「余はオルキャン、この世界の全てを手に入れる者」


 オルキャンと、別人格が交互に現れる。

 コボルトの王は本物なのか?上位種は存在したという事なのか?


「余、オルギャ、世界、シハ、モノ」


 額の魔石の魔力がオルキャンに流れだす。所々で身体が魔力に耐えきれずに弾ける。瞳が紅く輝き、あまりの異様さに思わず後退りしてしまう。


「ムーア、完全に人格が壊れてる。このまま放っておいても自滅するんじゃないか?」


『オルキャンが暴走すると不味いわ。大部屋を崩落させようしたのが魔法によるものだったら・・・』


「どうなる?」


『ここは崩落するわ!』


「それを、早く言ってくれっ!」


 キングクラスの魔石なら、破壊するには俺のをマジックソードしかない。ローブに魔力が流れ、純白の翼が現れる。ウィスプ達は、サンダーボルトで先制攻撃をかける。


 ゴブリンキングの時と違うのは、マジックソードの1本はダークが操る事。どちらかが魔石を捉えれば問題ない。


 純白の翼が俺を加速させ、オルキャンは“神剣”という名の鋼鉄の光る剣を構える。


 ダークのマジックソードが先に動き、オルキャンの神剣が襲いかかってくる。ダークの技量があっても、ほぼ重量の無いマジックソードではオルキャンの鋼鉄の剣を受け止めるのは難しい。


「ミスト」


 ダークが俺のをマジックソードを霧状に分解する。俺のリーフでは霧状にする事は不可能。これは単に俺のスキル不足ではなく、ヴァンパイアの特性と複合した結果でもある。


 ミスト化したマジックソードは、オルキャンの振るう鋼鉄の剣に目掛けてぶつかっていく。


 1つのミストが刃先にぶつかり破壊される度に、刃先に衝撃が走る。1つ1つは小さな衝撃であるが、非常に小さな面積にピンポイントで当たる衝撃。

 鋼鉄の剣には、見えない程度の凹みや穴が開き、それが次第に大きくなっていく。


 オルキャンが鋼鉄の剣を振り切る前に、剣は半ばで折れてしまう。


 そして隙の出来たオルキャンの額の魔石に目掛けて、俺の持つマジックソードを突き出す。


 ゴブリンキングの時と同じ、パリンという魔石が割れる軽い感触が伝わってくる。そして、オルキャンの身体が消滅を始める。

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