第66話.奥の手

 再び鉱山の中へと侵入する。何体かのコボルトは廃坑の中に逃げ込み、坑道の入口はコボルトで臭いで満ちている。それでも自分達の臭いを辿って、再び坑道の奥を目指して進む。


 明かり持っていないコボルトは、坑道の奥深くまでは潜れない。比較的浅い場所の細い横穴に隠れている。


 ふと疑問に思う。ここで、何が行われているのか?


 ゴブリン達なら単純明快だった。自分達の種族を増やし、縄張りを拡げる。精霊達の魔力を源とし、邪魔となるオニ族を排除する。


 リズやリタと同じで、ミュラーも石柱から魔力を吸い取られ、コボルトをポップアップしていたのは間違いない。しかしポップアップしたコボルト達は違った。石柱に縛られたミュラーを囲んで何をさせられていた?


 統率者のいなくなったゴブリンのように、今は混乱状態にあるのかもしれない。でも、ここはコボルトの巣穴の中。時間が経てば集団をつくって襲ってくる可能性もある。それでも、コボルトが近付いて来ないなら無視して先に進むことを選択する。


「何が違うんだ?」


 ボソッと独り言が漏れる。そして、ムーアは聞き逃さない。


『何か気になるの?』


「どうやったら、襲われるんだ?」


『何言ってるの?さっき襲われたばかりでしょ!』


「俺達じゃなくてラップ達はどうやったら、タカオの街近くで襲われたんだ?荷車を引いて戦いながら、タカオの街まで辿り付けると思うか?」


『私たちより弱いラップ達では無理でしょうね』


「本当なら鉱山から脱出出来たとしても、山の麓近くで殺されているだろ」


『何か意図があるっていうの?』


「魔物達の中に異変を知らせようとする親切な者がいるのか、それとも最初から誰かを嵌めようとしていたのか?」


 そんな話をしている内に、分岐地点まで戻ってきた。片方はミュラーがいた大部屋に続き、もう片方は地上にいたコボルトが残した臭い。恐らくは坑道の最奥へと続く。

 鬼が出るか蛇が出るか、今度こそ坑道の最奥を目指して進む。


 しばらくしてクオンが何かを探知する。生き物か何かは分からないが、何か動く音がする。そして、再び分岐点が現れる。


「はぁっ、また一緒か」


『ため息つかないの』


「精霊を助けに行けば、精霊ごと生き埋め。コボルトの大ボスを選べば、精霊は生き埋めにしますよ。最悪の2択だよな」


『どっちを選ぶの?』


「どっちも選ばないかな」


『それじゃあ、どうするの?引き返すの?』


「奥の手を使おう!」


 大部屋を脱出する際に、ハンソの出した岩を一瞬にして砂に変えたフォリーの陰魔法“シェイド”


「フォリーの“シェイド”で抜け穴を掘ろう!」


 精霊達の目が少し冷たい。


『自分だけ分かってないで、納得出来るように説明しなさいよね!』


 ムーアに少し怒られるが、性格の大人しい精霊達の中でも気になる事はちゃんと言ってくれる存在は貴重に思う。


「どうして俺達がミュラーの居た大部屋に入った事が分かったと思う?クオンの探知には何も引っ掛からないし、誰かに見られている可能性は低い!」


『そうね、クオンに探知されないとなると、レイスとか限られた魔物くらいね』


「そうなると俺達が最初に出会ったのは何になる?小部屋に居た石像みたいなコボルト。部屋に侵入しコボルトが動き出すと、術者は分かるようになっているんじゃないか?」


『魔法で出来ない事は無いけど、確証はないわよ』


「俺たちの位置や行動が分かってるなら、慌てて引き返す事もないだろうし、最初から生き埋めにするだろ。もし次の部屋の前にも、同じように小部屋があったらどうする?可能性は低くはないと思うな!」


『まあ、やってみる価値はあるわね』


「そうと決まれば先を急ごう、少しでも早いほうがイイ!」



 そして、坑道の奥にあった部屋はミュラーの時と同じ。小部屋があり、中には10体のコボルト。そして小部屋の奥には、大部屋が見える。


「フォリー、頼む!」


「かしこまりました」


 影からフォリーが現れて、大部屋に繋がる抜け穴をつくり始める。なるべく時間はかけたくないので、ソースイには悪いが少し小さめの穴になる。


「シェイド」


 そして、相変わらずの凄い性能の魔法。触れた瞬間に、硬い岩壁が砂のように崩れていく。射出する速度が少し遅くはあるが、本来の用途は見に纏ったり、接近戦で使う魔法なのであれば仕方がない。


 そして、小部屋を迂回して大部屋へと続く通路が完成する。

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