第64話.食い破れ!

 坑道の出口が近付いてくると、フォリーの憮然とした顔から逃げるように、ダークはブレスレットの中に戻っていく。


“コボルト、沢山”


 そしてクオンが、予想通りにコボルトの存在を告げてる。


「やっぱり100や200体の把握出来る数ではないな」


『このまま進むの?』


「期待に応えなきゃ、興ざめだろ」


『罠と知っていて、突っ込むのね!』


 まだ捕らわれた精霊がいる。ただ鉱山の中では地の利もなく、また生き埋めにするという選択をされては勝てる見込みは少ない。


 相手にとっても鉱山を潰すのは、それなりにリスクがあったのだろう。そして外で戦う事を選択してくれたなら、それはチャンスでもある。


「相手の想定以上の力で突破するさ。ムーアもブロッサも、最初から全力で行くぞ!」


「分カッタワ」


『士気高揚』


 不安や迷いが無いわけでないが、それが薄れていく。数字化は出来ないが、間違いなくステータスも上がっている。


「行くぞっ!」


 坑道の出口が見え、点だった光が次第に大きくなる。


 ウィスプ達が薄っすらと光始める。セイレーンのリタを助けた時に放った攻撃とまではいかないが、連携した攻撃を見せるようだ。


 前方に魔力が集まり光の玉が出来る。バチバチと放電する雷の玉。坑道の幅の限界まで大きくなった瞬間、俺達に付いてこいといわんばかりに加速を始める。


 俺達を引き離して、雷の玉が坑道の外に出る。


 バチバチバチバチッ


 雷の玉が、溜め込んだ電気を一斉に放電する。攻撃した者を全てを倒す必要は無い。無効化するだけて十分。これまでも繰り返してきたが、それに合わせて昇華させた技なのだろう。


 俺達が坑道の外に出た時は、雷の残滓が残る。所々地面から、時折バチッと火花が散る。


 俺達が出てきた所を叩くつもりが、集まった所を逆に叩かれた格好になる。見えない場所から飛んで来た攻撃は、完全に出鼻をくじいた。俺達が坑道から出てきても、コボルト達は驚いたのか警戒しているのか立ち尽くしたままで動けない。


 もちろんクオンの探知のお陰でもある。相手の数や密集具合が把握出来るのはチート。もちろん、立ち尽くしているコボルトに付き合う必要はなく、先制攻撃だけじゃない、第2·第3の攻撃もこちらがもらう。


 ブロッサがポイズンブレスを放ち、倒れているコボルトの止めを刺しながら、毒の壁を作る。


 コボルト達の武器は、短剣やショートソード。もちろん、爪や牙と己自身が武器になる。坑道の中は狭い為、槍だけでなく弓などのロングレンジの武器は取り回しが出来ない。ましてや細い抜け穴から出てくるのであれば、そういった武器は持ち出せなかったのだろう。


 クオンの指示で、ウィスプ達がコボルトの1番薄い場所へと突撃する。


「ソースイ、ムーア、ハンソ、続くぞ!」


 そして、ウィスプ達が作った楔をこじ開けに行く。

 ソースイはドワーフ製の斧に漆黒の盾。斧をコボルトに叩きつける。多少の強引な戦い方でも耐えれる斧。ダークの戦い方を見た影響なのか、コボルトを弾き飛ばして、他のコボルトにぶつけていく。しかし力加減は難しく、一瞬で消滅するコボルトの方が多い。

 そして、要所要所で漆黒の盾を振るう。込めた少量の魔力で放つ“ゼロ・グラビティ”は、コボルト2・3体をまとめて弾き飛ばす。



 ムーアは、土オニの短剣と風オニの短剣の二刀流で、コボルトの間を舞うように進む。


『狂喜乱舞』


酔歩蹣跚すいほばんさん


『酔眼朦朧』


 コボルトの動きを止めたり混乱させたりと、無力化し、時には短剣を振るいコボルトを倒していく。無力化されたコボルトはハンソが仕留めていく。手をバタバタと振り回して、力任せの攻撃。身体自体は、オオザの崖の岩と同じ。コボルトの持っている武器が体に当たった程度ではキズは付かない。


 俺は左手でマジックシールドを2枚展開し、右手にもマジックソードを2本展開する。

 攻撃はダークが操作してくれる。それにマジックソードの発動が、以前より早くなった。これもダークのサポートの影響だと思う。

 そして、マジックソードを持ったダークの生き生きとした姿が見える。俺が火オニの短剣を持てば、さらに攻撃の手数も増える。



 ブロッサはポイズンミストで壁を作り、全方位を囲ませない。進んだ分を埋めるように、壁をつくる。今は後戻りはせずに、先へと進む事だけに集中する。


 そして、コボルトの包囲網の終わりが見えて来るが、そこに立っているのはコボルトではない魔物の姿。

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