第55話.新たな装備

 在庫分も含めて、500万ウェン分のオオザの崖の石の取引。もっと期待してはいたが、偶然出会ったハンソがもたらしたものといえば、欲張り過ぎなのかもしれない。


「カショウ殿は、これからどうされるのですか?」


「装備を求めてタカオの街に来たので、装備が整えば直ぐに旅に出ます。私の目的は精霊を探すことですので」


「そうですか、もう少し話したかったのですが、それなら残念ですね。良い店を紹介するので、そこで装備品を探してみて下さい」


 そこでマッツは領主の仕事に戻って行く。そう言い残して出ていくマッツの動きは、無駄がなく速い。恐らく今日のスケジュールも、大きく狂っているの間違いないと思う。


 俺達もゆっくりする訳ではないので、金を受け取り直ぐに館を出る。山を囲む内壁を抜け、タカオ街に出る。そして、内壁から十分に離れたところで、ムーアが出てくる。


『何か問題でもあったの?』


「マッツの持っていたペンから、微かにコボルトの臭いがする」


『タカオの街とコボルトが繋がってるの?』


「それは分からない。ただ装備を整えたら、直ぐに街を出よう」


『それからは、どうするの♪』


ムーアは、これから起こるであろうトラブルを感じて、楽しげに聞いてくる。


「分かってて聞いてるだろ。北のコボルトを調べよう。ゴブリンの時と同じ事が起こってるかもしれない」


 時間もかけれないし、マッツの紹介してくれた店に向かうと、大型店を想像していたが意外と小さい。武器や防具の店が集まる地域の大通り沿いではなく、1つ裏に入った通りのこぢんまりとした店。


 店の中に入ると、中にはマッツに似た体格のドワーフの店員が居る。他に誰も客はおらず、店員の方から声を掛けてくる。


「マッツさんの紹介の方ですね。こちらへどうぞ」


 マッツから連絡がいっていたみたいで、こちらが何も言っていないのに店員の見立てが始まり、俺とソースイの体格に合わせた鎧や武器が次々と前に並べられていく。


「まだ何も言ってないんだけどな・・・」


「マッツから500万の予算で、装備を揃えてくれと言われてるんでね。商売人としては、きっちり500万で揃えるのが腕の見せどころですね!」


「そんな話は聞いていないんだけど?」


「この街の領主としてのマッツの立場と、親としてのマッツの立場の違いでしょ。これは、親のマッツとしての謝礼。それなら、ケチらずにしっかりと500万ウェン分を使いきるのが、私の役目ですよ」


 喋りながらも、イロイロな武器や防具が並べられていく。


「そんなに荷物が少ないなら、アイテムボックス持ちでしょ。もちろん、不足分は手出ししてくれれば大丈夫ですよ」


 ドワーフを誤魔化す事は難しく、分かる人には簡単には分かってしまう。それならばと気にする事なく、武器・防具を選ぶ。


 先に俺の防具を決めてしまう。そうじゃないとソースイが選べなくなる。俺の希望としては、影の中から道具を出すから、なるべく光を遮断出来る材質や構造が好ましい。


 目についたのはフード付のローブで、下地は黒で表は少し明るいグレー。防刃性能は高く、魔力を流せば少しだけ素早さを上げてくれる特殊効果が付いている。


 200万ウェンと少し高く、手に取ったローブを置こうするが、ムーアが俺の腕を掴む。何も言わないが、笑った目が怖い。


 これでソースイは、遠慮なく選べるはず。そして最初に手にしたのが、やはり使いなれた斧。

 問題は柄が持ちこたえるかだが、これは店員の保証付の一品。試し切りさせてもらったが、全く問題ない感触のようだ。一応今買えば、替え用の柄も付いてくるらしい。


 次の装備を選ぶ前に、ゴブリンロードの漆黒の盾を鑑定してもう。


「何ですか、この盾は?全く材質すら未知。ただ性能は高いだけでなく、何らかのマジックアイテムである可能性が高い。この街でも、これを超える盾は見たことはないです!」


 興奮する店員に、そっと漆黒の盾を後ろ下げる。鑑定欲の溢れる店員にこれ以上関わられる前に、ソースイの防具を選びを優先する。

 この周辺の魔物はコボルトやハーピー。洞窟や森や山岳地帯での戦いが続く為、なるべく軽装のものを選ぶ。しかしヤッシの防具は優秀で、どちからといえば破損した時の予備に近い。


 他にはツーハンデッドソードと、大弓。これで300万ウェン。きっちり使いきってのお買い物終了。


 漆黒の盾を鑑定したい店員が、しつこく食い下がってくる。俺と店員の間に割って入るように、ムーアが現れる。


『アンクレットを探してるんだけど、何かあるかしら?イイものがあれば、考えてあげるわよ』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る