第53話.コボルト戦
光が走り、コボルト達の後ろで土煙が舞い上がる。そこでコボルト達は、新たな敵の存在に気付く。
ゴブリンと違うのは、下位のコボルトであっても群れで行動する事。全員が濃灰色で、色違いや身長の大きな上位種の特徴をもった個体は見られない。ちなみに、コボルトは犬がベースの人型。つまり、顔は犬で全身は毛に覆われている。そしてゴブリンよりも身長は高い。俺と同じくらいだから、160cmくらいある。
俺たちが援護しても人数も人数は互角以上。ちなみに、クオンとベルは数に入れないでの話。
しかし、ウィプス達の空からの攻撃の効果は大きい。障害物や足場の影響を受けず、上空からの攻撃。
相手は上空に攻撃する手段がなく、ウィプス達の攻撃は避けるしかない。ただゴブリンよりもコボルトは身体が大きい為、込める魔力も大きくなっている。
上空に気を取られて防戦一方になっていると、ポイズンボムとストーンバレットが飛んで来る。浮き足だつコボルト達だが、逃げるタイミングを逸する。ソースイのグラビティでコボルトの俊敏性が奪われる。
「ガウッ、ガウッ」
突然襲ってくる体の異常に気付くが、ゴブリンよりは強いといっても、所詮は下位の魔物。キングやロードが出てこない限りは、問題ない相手かもしれない。
「コボルトの声は理解出来ないな。理解出来るのは、ゴブリンだけなのか?それともキングやロードのような上位種だけなのか?」
『コボルトに上位種は存在しないわ』
ムーアは召喚しなくても自由にブレスレットから出入り出来るが、基本的には常に俺の近くに居る。戦闘中じゃなくても、俺の側から離れる事はなく、疑問や独り言に答えてくれる。
「何故、存在しないんだ?」
『それは、分からないわね。コボルトは昔からそう決まってるもの』
「ゴブリンが進化した存在だったとかないよな?」
『それは、無いわね。この辺りで一番近くに棲息するのはハーピーよ。ハーピーの場合は上位種は、キングでなくクイーンになるけどね』
上位種の有無に、何か明確な違いはあるのかもしれないが、それは何かは分からない。
そんな話をしている内に、全てのコボルトは倒されて消滅する。それなりの数は居たが、ウィスプ達に圧倒されて魔石だけが残っている。
「魔石が残るのは一緒なんだよな?」
『何か違うものがあるの?』
「アシスの言語は1つだろ。発声が出来る種族なら全ての言葉は同じ。それがアシスの|理。それなのに、ゴブリンもコボルトもアシスとは違う言葉を使う。そして、ゴブリンとコボルトも言葉は違う」
『ゴブリンやコボルトが違う世界のものだと言いたいわけ?』
「そうだな、そんな考え方もあるな。迷い人がいるんだから、迷い魔物があってもイイはず」
『それなら、ハンソみたいな場合もあるわよ』
「どういう事?」
「ほとんどが“エトッ”と“ントッ”しか喋らないわよ」
「まさか、迷い精霊じゃないよな?」
『それは、ないわよ。それに“エトッ”と“ントッ”だけでも、ソースイは内容を理解しているわよ♪』
「コボルトの“ガウッ”にも沢山の種類や微妙なニュアンスがあるっていう事か?」
『そうね、迷い魔物の可能性よりも高いかもしれないわね。目の前に、実例があるわけだし♪』
今答えは出ないだろうが、コボルトの事は調べてみようと思う。ゴブリンの時と同じで、また他の精霊達に出会う切っ掛けとなるような気もする。
「大丈夫か?」
ドワーフ達に駆け寄るが、安心したのか皆力尽きて倒れている。鎧は傷だらけで、鎧に覆われていない箇所には無数の裂傷や切り傷。
『どうするの?助けるの?』
ムーアに聞かれて、少し悩む。命に別状はないかもしれない。だけどブロッサ特性のポーションを使うか、どうするか?
「ブロッサのポーションを使おう」
ドワーフ達の身に付けている服や鎧は、安物ではない気がする。損得勘定する訳ではないが、タカオの街には装備を揃えにきている。ヤッシの紹介状があるといっても、少しでも条件や待遇が良くなるに越したことはない。
ブロッサが俺の影からポーションを取り出し、ドワーフ達に使う。ポーションには、飲み薬と塗り薬がある。怪我や傷の程度により使い分けをするみたいだが、その見極めは俺には分からない。そこは流石は毒の精霊といえる。
飲み薬の方は全て身体に吸収される為に効果は大きい。しかし傷などの場合は、患部に直接塗った方が即効性がある。
また戦闘中の場合は、状況と傷の程度で使い方が変わる。ここは俺ではなく、素直に専門家に任せるしかない。
ブロッサは、塗り薬の方の瓶を開けると、舌を伸ばして薬を付ける。それをドワーフ達の傷に塗っていく。
気を失っていて良かったな。俺の時は・・・覚悟しよう。
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