タカオの街のドワーフ

第51話.ハンソの石

 石柱による魔物のポップアップは、ゴブリンだけでは終わらない。必ず後に続く魔物達が出てくるはず。それは、俺も精霊達も考えは同じ。


 そして魔物を辿れば、何かの答えが見えてくるはず。


 皆の前で格好つけて宣言したはイイが、現実は違った。装備を揃えるにしてもお金が必用。街に入るにもお金が必用。船や海路を行くにもお金が必用。


 結局は、どの世界でもある程度はお金が解決してくれる。“金も力”ではなく“金は力”の世界では変わらない。


 そして必用なものは多い。


 1番目は、ソースイの装備。ソースイの装備は、バリエーションを増やしたい。状況にあった装備は必要で、クオンのアイテムルームで保管する事も出来る。


 そして、アイテムルームも運用の目処がたった。ヴァンパイアの3兄弟の、ダーク、フォリー、マトリ。この3人が、アイテムルームから物を出してくれる。


 例えば剣を出そうと思ったら、俺の影から剣が出てくる感じになる。あまり目立つとアイテムルームの事がバレるので、ローブの中に手を入れて出すフリにはなる。


 2番目は、俺の装備。ある程度の傷は自然に回復してしまう身体。そしてチュニックも、恐らくは上位精霊による優れた防具になる。


『あなたの常識はどうなってるの?その見た目なら、何時でも襲って下さいって言ってるのと同じよ!』


 と、精霊達総意の意見としてムーアに怒られた。確かにリスク回避は必要で、アシスではなくても当たり前のことだと思う。


『ボロボロのローブを着て、怪しまれない訳がないでしょ。どう見ても不審者よ、それじゃ、街にも入れないわ』


 確かにおっしゃる通りで、何も反論出来ない。さらにダメ出しは続く・・・。


 そして最後に、アンクレット。召還した精霊は両手のブレスレットから出てくる為に、足元の影から精霊が出てくると違和感が生まれる。それをカモフラージュする為のアンクレット。

 まあ隠れて見えなくなれば、あっても無くても大丈夫だが、リアリティーは必用らしい。


 オニ族の村に戻り、ソーギョクやヤッシに聞いた話では、今の俺でお金に変えれるのはゴブリンの魔石とブロッサのポーション。


 何の属性も無い魔石は、乾電池のような役割を果たし、マジックアイテムに魔力を供給する役割を果たす。

 しかし下位のゴブリンの魔石は、ほぼ価値が無い。ゴブリンで100ウェン、メイジで1000ウェン、キャプテンで3000ウェン。


 そして属性を持つ魔石は高価になる。属性を持つ魔石、つまり魔力を込めれば魔法が使える事になる。


 しかし、ゴブリンくらいでは微妙な性能。マジックアイテムは高価な代物。魔石に魔力を込めるにしても、魔石から不要な属性を抜くにしても、それなりに費用がかかる。それだけの費用を掛けて、ウィンドカッターだけが使えるマジックアイテムや乾電池の役割では成立しない。


 確かオニの短剣も中位クラスの魔法は使えるはず。後は、使う人の制御能力や魔力量次第になる。


 2つ目は、ブロッサのポーション。それなりにクオンのアイテムルームにも在庫は出来たが、森の中で材料が採れるから。これから森を出た後の事を考えると、なかなか売りには出せない。


「コレモアル」


 ブロッサが持ってきた、黒色のビン。


「これは出さない方がイイと思うな」


 ソーギョクもヤッシも黙って頷く。


「これは沢山のあるのかな?」


「材料ガ少ナイカラ、コレダケ」


「貴重な物だから、大切にしまっておこう」


「分カッタ」


 お金に変えれるものは少ないと諦めかけた時に、ヤッシがハンソに気付く。


「あの精霊は、アースバレットが使えるのか?」


「残念だけど使えないな。石を出せるだけだ。砂とか小さな石は出せない」


 ガタンッと音がして、ヤッシの背が低くなる。座っている椅子を後ろに倒して、ヤッシがハンソに近付く。


「出した石を見せてもらえんかの?」


「ただの石だぞ。ハンソ、1番小さい大きさの石を出してみてくれ」


「エトッ」


 ハンソの両手に、30cm程の石が現れる。それをヤッシが受けとると、軽く叩いて音を聞く。そして腰にぶら下げているハンマーを取り出して石を叩く。


 ガキッと音がして石が欠ける。その断面を見て、ヤッシが呟く。


「オオザの崖の石じゃ!」


 ハンソが出していたのは、オオザの崖の岩と同じ成分。


「これなら買い取りたい。この村では限界があるし、タカオの街のドワーフに卸して貰えると助かる」

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