第49話.影と陰

 やっと終わったと思ったら、やり直しになる。積んでは崩して、よくある事ではあるが・・・。

 先にこの洞窟の中を確認すれば良かったと後悔しても後の祭り。目の前に精霊の核があると分かれば、優先してしまうのは仕方ないだろう。


 この洞窟の部屋というか、大きな空間には出入口が4つある。


 降りてきた階段のある扉。その向こう側の、ゴブリンロードが去っていった大穴へと続く扉。そして、左右にも扉がある。

 左側の扉は外へと繋がり、巨石と土砂により塞がれている。右側は部屋になっているが、ゴブリンキングが住んでいた形跡はなく、岩をくり貫いて作られた空間。剥き出しの岩肌に、沢山の鎖がぶら下がっている。


 恐らくは、精霊達の監禁部屋。そして1番奥には、小さな精霊達の姿が見える。力なく石の床に横たわる子供達の姿。足枷が付けられただけで、壁に縛り付けられてはいない。


 ヒト型のクオンと変わらないくらいの姿が3つ。男の子1人と女の子が2人。


 そして、俺というよりウィスプ達の灯りで目を覚ます。


 3人とも瞳は金色で深紅の唇。男の子は灰色の髪で、女の子は濃いバイオレット色と濃いピンク色。


 ピンク髪の女の子を庇うように、灰色髪の男の子とバイオレット髪の女の子が前に出る。


「あなたは誰っ!」


 何かを聞くような言葉ではない。どこか威嚇するような、牙を剥くような鋭い言葉。


 いつもの役割なら、まずムーアが動く。アシスの事を知らない俺をムーアがカバーしてくれる。相手はどんな存在なのか?そして、相手にとって俺達の存在はどうなのか?


 それを判断してムーアは動いてくれる。


 後で知る事になるが、自由に判断し自由に動ける反面、俺が滅びる時は一緒。契約の縛りとしては一番重い契約になる。


 しかし今回は違った。


「大丈夫だったのーっ」


 俺の影からヒト型のクオンが飛び出し、バイオレット髪の女の子に抱きつく。


 灰色髪の男の子を弾き飛ばし、ピンク髪の女の子も横倒しになる。ネコ耳で気付いたのか、バイオレット髪の女の子はクオンの頭をワシワシしている。


 唖然としている俺達を他所に、一通り肌触りと感触を堪能している。


『あなた達、知り合いなの?』


 ここで、やっとムーアが2人の間に入る。ムーアの声にハッとするクオン。


「小さい時は一緒に居たの。だけど今はバラバラ。ヴァンパイアは闇の中でしか生きられないの」


 感じる魔力からは精霊だと思うが、どんな存在なのかは分からない。頭にクエスチョンマークが浮かんでいる俺にムーアが捕捉してくれる。


『ヴァンパイアは、陰の精霊よ。クオンは影の精霊で、存在は近いわ。ただヴァンパイアは光の射す場所では存在出来ないわ。太陽だけでなく、月明かりでもダメよ』


 影と陰は似た存在ではあるが、陰と光は共存出来ない。月が複数あるアシスでは、月明かりでもヴァンパイアは存在出来ない。

 この洞窟のような光の届かない場所でしか生きられない事になる。


「ヴァンパイアの精霊の核を、外に撒くとマズイよな・・・」


『精霊の核は消滅しなくても、精霊としては死んだ状態といってイイわね』


 慌てて魔石を入れた一升瓶を洞窟の中に戻す。そして瓶の中から砂を外に出す。


「あのな、匂い嗅いでもイイか?」


 ヴァンパイアの方に一歩踏み出すと、


「キャアアアアーーーッ!」


「変態ーーっ!」


 何とか誤解は解けたけど、匂いしか確認出来る手段がないから仕方がない。より正確に確実に識別するには必要性な事。だけど、皆の目が痛い。しばらくは変態扱いで、ムーアの良い玩具になりそうだ。


 とにかく精霊の核の仕分けを終わらせた。ヴァンパイアの核だけは戻す場所を慎重に決める必要がある。


 そして、3人のヴァンパイアの子供達をどうするか?といっても、俺よりも遥かに年上なのは間違いない。思考もしっかりしているかもしれない。


 クオンが、ヒト型で俺のところにやって来る。


「3人と契約しちゃダメッ?」


「ブレスレットの中は大丈夫かもしれないけど、ずっと外には出れないぞ」


「契約してくれれば、カショウの影の中に入れるの。そしたらクオンと一緒に居れる」


「3人には聞いたのか?」


 3人の方を見ると、バイオレット髪の女の子ヴァンパイアが答える。


「クオンから聞きました。あなたと一緒にいるのが安全だと。私達は闇の中でしか力を発揮できません。それでも、出来る事は何でもするつもりです。出きれば契約をお願いします」


 何だか弱みにつけ込んでる感じで罪悪感がする。恐らくは、ムーアとも話は付いているのだと思う。それに何だかんだで、ムーアは優しい。チラッと横目でムーアを見る。


『この子達には、アイテムルームからの品出しをやってもらおうと思うわ。影に手を入れれば、この子達が出してくれる。どうかしら?』


「それじゃ、ダーク、フォリー、マトリ」


 灰色髪のダーク

 バイオレット髪のフォリー

 ピンク髪のマトリ


「この場所に長くいるのは危険だ。早く出よう」


 ブレスレットに吸い込まれる3人。そして、召喚すると、クオンと一緒に俺の影の中に潜っていく。

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