第8話

「私の探していたのは、銀の浴槽ですか、金の浴槽ですか? それとも・・・・・・・・・大浴場だぁ!!!!」


 私は泣きそうになる。

 ラインハルトの屋敷のお風呂はうちの家よりも大分豪華だった。浴槽は金でできており、これは一般の家庭にいた私には味わったことが無いから嬉しいと言えば、嬉しいけれど、


「わたしは癒されたいのよ・・・」


 私は跪く。金は金で錆びないと効果はあると思う。けれど、私が求める効果は身体を癒す効果。


「なんで、大浴場がないのよぅ!!?」


 あぁ、涙が出てくる。いや、こんなことでって言う人もいるかもしれないけれど、私にとっては本当に毎日欠かせない幸せを感じる時間なのだ。それを、奪われるのは・・・辛い。私は現実逃避したくなって、辺りを見渡すけれど、やっぱり一番目立つ金でできた浴槽に目がいってしまう。


「とりあえず、入って考えましょう」


 私はとりあえず、金の浴槽に入る。これはこれで、お風呂好きとして嬉しい経験だ。私は浴槽に手を掛ける。触り心地は私の家にあったモノより全然いい。そして、ゆっくりとつま先を浴槽に張ったお湯に垂直に入れて・・・


「うーん…やっぱり温い」


 温水プールよりも温いかもしれない温度。


「おれじゃあ、私は元気が出ん・・・」


 転生して喜ばしいのは小さくなった身体。そのおかげで、浴槽が前世の御風呂よりも狭くても、ゆったりと入れるはずなのだが、そもそも底も薄いし、やっぱりこれは御風呂じゃない。


「出れない・・・嫌な意味で」


 いつもは身体の芯まで暖まるまで、長く浸かっているのだけれど、この温すぎるお湯では寒くてなかなか出れない。


「とは、言いつつ・・・待っているしな、イケメンと美少女が」


 どう考えてもあの顔は、私にとって嫌な話だ。

 まったく、私は何を今までしでかしてきたのだろう。


「って、私もほんの少しだけ悪いことしちゃったけどさぁ」


 私はお湯から出て、髪を丁寧に拭いていく。学校の校則で髪の色を染めてはいけないから、この赤茶の髪色は少しテンションが上がる。身長が小さくなったのも悪くはないし、浴槽の文化はあるのだから、ドラム缶のお風呂や五右衛門風呂なんかを作るとか、少しずつ、この世界の良いところを見つけていけばいいじゃない。


「よし、平民だったら自由度は少なかったかもしれないし、貴族だから、色々試して見ましょ」


 不安はたくさんある。

 だって、まず、スマホが見れない。いろんな家電に助けられて生きてきた私にはとても不安だ。

 でも、前を向いて行こう。

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