第4話 生徒会長、尾上唯
昼休み時の活気ある校舎の廊下を暗い顔をして歩く少年、
火伊奈の祖父、赤川権五郎。自動車の下請けパーツ工場を四十年以上経営するという肩書だけ見たら立派な人物なのだが、その実夢見がちが過ぎるファンタジー老人で隣に住む年頃の少年の司は彼の被害に大いにあっていた。
権五郎はヒーローが大好きだ。そのヒーローが日本にいつか必要になると仮定悪に対抗するすべを常日頃から考え、その実験台に常になっていたのが司だった。
拳法を極めることで気を操り超次元の力を得ることができると夏休み丸々孤島に放り込まれ、じじいとみっちり拳法+サバイバルの知識を叩き込まれた。車が後ろから追ってくる恐怖とヘビとトカゲの味を覚えるという散々な目にあった。
その次は魔法が現実にあると妄言を吐いて、また夏休みがつぶされてロンドンでひたすら魔法学校を探し回る旅に連れていかれた。石壁や駅の柱をペタペタと触り、何もない場所でよくわからん呪文のようなものを唱えさせられ、現地の人たちに某児童文学のクレイジーファンと思われ大いに笑われた。ひたすら嘲笑を受けるだけの旅で得るものは何もなかった。
会うたびにそんな滅茶苦茶なことに突き合わされ、すっかり司は権五郎に辟易していた。また工場に行くとよくわからん妄言と理屈を聞かされ、滅茶苦茶な場所に連れていかれて滅茶苦茶な修行をさせられるに違いない。
「ハァ……嫌だなぁ……行きたくないなぁ」
などとつぶやいて歩いていると前方から二人に左右を挟まれて歩く凛々しい雰囲気を携えた女生徒が向かってきた。
「会長、予算のことでまた第二野球部が文句を言ってきて。部費を増やせって言ってるんです!」
「会長、用務員さんがまた校内でおやじ狩りに合ったと苦情を言ってきてます。近く生徒たちに改善が見られなければ辞職すると生徒会に言ってきてますけどどうしましょう」
左右の二人から全く同じタイミングで問われているにもかかわらず、会長と呼ばれた彼女は顔色も変えず、二人をいさめようとはせず、涼しい顔で微笑みかけた。
「第二野球部は実績も何もなくて一見すると遊んでいるだけのような部活動。だけど、球技というのは遊びの側面もある。そちらをないがしろにしてただ極めるだけのスポーツというのは寂しすぎる。よろしい、具体的な使用目的と計画を提出したら一考に値すると彼らには伝えてくれ。用務員の苦情を生徒会に言われてもこちらとしては本来としてはどうしようもない。生徒会は警察ではないしね。だが、わざわざこちらにも伝えてきたということはそれだけ用務員さんは生徒間のコミュニティにも改善を求めているということだろう。彼には次回の集会で生徒会でも注意喚起を呼びかけると同時に、独自の罰則も考えると伝えてくれ」
「「あ、ありがとうございます!」」
左右の生徒の相談に見事にこたえた彼女が手を振ると、二人は早々にいなくなった。
二人がいなくなり、会長と呼ばれた女生徒は初めて司に気が付いたように立ち止まる。
「会長。相変わらず忙しそうですね」
「む、君か。君はだいぶ暗い顔をしているな。何か悩み事か?」
御式学園生徒会会長、
彼女はやはりオーラがあるただ前に立っているだけでなんだか力がもらえそうでなんでも解決してくれそうになる。
「実は……」
ぐ~………。
腹から響く鈍い音
権五郎じいさんの話は確かに現在解決したい問題の優先事項としては高い位置にあるが、それよりもまず自分は解決しなければいけない問題があることを忘れていた。
「言うにやまれぬ事情でお金を失ってしまいまして、今日食う飯にも困っている有様なのでありますよ」
だから助けてください、お代官様、会長様―――!
「ふむ、私もこれから食事をとるところだ。たまには二人で学食なんて言ってみるか?」
「ということは?」
「おごってやろう、何でも頼め!」
「会長ッ‼」
サムズアップしている会長を抱きしめたくなって両手を広げるが、会長がハッと顔を赤くしていたので冷静になった。
「あ、その……行きましょうか」
「あ、ああ……あと、会長じゃなくて昔のようにユイ姉と呼んで、敬語もやめてくれ。会長と呼ばれるとなんだか他人のようで寂しいじゃないか」
「流石に高校生になりましたし、会長ってみんなが呼んでいるからついつられて」
互いに照れながら学食への道を歩いた。
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