世界防衛大型重機 コバキオマル ~勝手に戦闘ロボットを用意してたんだけど、俺たち以外の勢力がちゃんと戦ってる~

あおき りゅうま

序章 前日譚

第1話 赤川権五郎のノストラダムス

 一九九九年七月三十一日の夜のこと。雲一つない星々の輝く晴天に暗い闇の穴が開いた。

 闇の穴の下には御式ごしき町という町があった。


「く……ハァッ!」


 闇の穴から四つの影が街へ向かって落ちてくる。

 四つの影は湖に落ちていき、三つの影は落ちた後はすいすいと泳いで岸まで渡ったが、一つだけ大きな水しぶきを上げて手をバタバタと振り回している。

先に岸へたどり着きそうだった三つの影は、溺れる者に気が付き助けに戻った。


「あば、あばばば‼」

「ちょっと何やってるのよ」

「あんまり世話やかせんじゃねーですよ」

無事無事ぶじぶじ? 水水みずみず中中なかなか?」


 三人のやせ型のオールバックの男、筋肉隆々なマッチョマン、髪が地面につくほど長い少年が、マントを羽織った長い金髪の幼女を引き上げる。


「お前ら! もっと早く助けんか! 眷属じゃろ!」

「んなこと言われても、ねぇ?」

「俺たち逃げてきたばっかですよ。とりあえず体の休息が最優先ですよ」

「疲れ疲れて、く~たくた」


 マントの幼女が足を踏み鳴らして怒るのをしり目に三人はその場に座り込んでしまう。

「お前らなぁ~……まぁいい、こちらの世界に来たとしてもやることは同じだ」


 マントを手でなびかせて、腰に手を当て、自信満々に笑って宣言した。

「この世界を支配する!」


 高々と放った世界征服宣言は夜の湖に響き渡り、湖の近くに住んでいたおじいちゃん、吉田さん七九歳の目を覚ましてしまった。

 吉田さんが何事かと窓から覗き見ている先で、再びマントをなびかせて、遠くに見える街の光の方へ手をかざす。


「ひとまずあの町へ急襲を……」

「どうやって? アタシたち聖騎士との戦いで力使い果たしたのよ? 魔王様」

「へ?」

「魔王様だってもう魔力も体力もゼロでしょ? 何テンション上げてんですよ、とりあえず座りましょうや」

「長期間戦闘無理無理……どうするどうする魔王様?」

「なしてお前らはそこまでやる気がないんじゃ! あの妙ちくりんな偽骸ぎがいとかいう巨人がいない、聖騎士どもがいない世界までわざわざやってきたんじゃぞ! ここなら楽勝じゃろ!」

「でも、この世界のことを全く知らないのにいきなり戦争を仕掛けるのは危険よ? この異世界に偽骸ぎがい以上の兵器があったらどうするのよ? 聖騎士以上の魔法剣士集団も。情報を集めてからでもいいんじゃないの?」

「ぐ……」


 大男の言葉に反論できず、魔王は黙ってしまう。


「とりあえず、どっかで飯でも食うですよ」

「腹減り減りのぺっこりぺっこ」


 マッチョマンと少年が立ち上がり、一足先のその場から歩いて遠ざかっていく。遅れ、大男も二人の後についていき、魔王だけが残された。

 遠くに見える夜空を照らす光を見つめながら拳を握りしめる。


「ふっ……覚えて置け! 今はまだ支配はしてやらない、だがいつか、準備ができ次第。一切の躊躇なくこの魔王、いや、大魔王リムル・フォン・バーン・ドミナスがこの世界を蹂躙してあげる! アーハッハッハッハ! アーッハッハッハッハッハァ‼」


 大魔王の高笑いが湖に響き、


「うるせぇ! 今何時だと思ってんだ!」


 吉田さんの怒りが爆発した。


「あっ……ふぇ、ふぇぇぇぇぇん!」


 いきなり怒られて驚いて泣きだしてしまった大魔王。

慌てておいて行った三人へと走って「何で置いていくんじゃ、馬鹿じゃないの!」と涙声で罵倒しながらも追いつく。

 吉田さんが窓を閉めた後、角流湖はいつもの静けさを取り戻した。

 そして、その光景を見ていた男は吉田さんのほかにももう一人いた。

湖近くのベンチで座ったまま拳を震わせている男性はすべてを見ていた。

 謎の闇の穴が開き、そこから怪しい四人組が出たこと、そのうちの一人が大魔王と自称し、世界征服を宣言したこと。

 目の前で起こった摩訶不思議現象と、奇天烈な人物たちは、男がそれを聞いてからずっと求め、待ちわびていた者たちだった。


「来た……やはり来た……ノストラダムスの大予言は本当だったのだ!」


 興奮し立ち上がるこの男性の名前は赤川あかがわ権五郎ごんごろう、この当時五十五歳の彼がこの光景を見たことで人生が狂い始める。

 だが、狂ったのは彼の人生ではない。この時から九か月後に生まれる男の子、池井戸司の人生であり、この物語は狂わされた彼の物話である。

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