第125話 いつも、ありがとね

 数分後、話し合いを終えた五人。金色の瞳を持つ男性が、僕に向き直りながら醜悪な笑みを浮かべます。


「待たせたな。決まったぞ」


「…………」


「もし、お前が俺たちの頼みを断ったら、俺たちがあいつを殺せるまで人質として生かしておく。まあ、頼みを断った罰として、その手足は切り取ることになるけどな」


 手足を……切り取る……?


「ハハハ」


 思わず、乾いた笑いが僕の口から漏れました。師匠を殺す道を選ぶか。人質となって手足を切り取られる道を選ぶか。とんでもない二択もあったものですね。


「俺としては、あいつを殺す方が簡単だと思うがな。自分の弟子になら、いくらでも無防備な姿を晒すだろうし。つーか、他人をかばって手足を切り取られるなんて、死んでもごめんだ」


 …………

 

 …………


 怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。

 

 いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。

 

 逃げたい。逃げたい。逃げたい。逃げたい。逃げたい。逃げたい。逃げたい。逃げたい。逃げたい。


 繰り返される恐怖の言葉。巨大な渦となったそれは、僕の自我を次々に浸食していきます。その勢いはもうだれにも止められなくて。


 もう、いっそのこと……。







『シチュー作れる?』







 ……え?


『今日はダラダラするって決めてたから!』


『弟子君、大丈夫?』


『もう一枚頂戴!』


『お菓子、食べてもいい?』


 突然、頭の中を流れ出す映像。様々な師匠の姿。笑って、怒って、泣いて。そしてまた笑って。きっと、これが走馬灯というやつなのでしょう。


『ねえ。弟子君』


『いつも、ありがとね』


 …………


 …………


 ああ……。


 僕は、どうして……。


 こんなつまらない二択で迷っていたのでしょうか。

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