第70話 別の方法?
「わ、私!?」
「はい。お願いします。森の魔女さん」
旅人さんは、師匠に向かって勢いよく頭を下げました。師匠の方はというと、目が左右にフラフラと泳いでいます。まあ、当然ですよね。師匠は、料理が全くできないんですから。
「え、えっと……」
「お弟子さんにも勝てなかった私が、その師匠である森の魔女さんに同じ勝負を挑もうなんて、厚かましいことは分かってます。でも、私、やっぱり森の魔女さんと勝負がしたいんです」
頭を下げたまま懇願する旅人さん。横で見ている僕にも、その熱意がありありと伝わってきます。幻覚でしょうか。旅人さんの背後に、メラメラと燃える炎が見えました。
口をパクパクと動かす師匠。助けを求めるように、チラリと僕に視線を向けます。ですが、僕は、フイッと顔をそらしました。元はと言えば、師匠のでまかせから始まった勝負です。その責任は自分で取るべきでしょう。
僕たちの間に流れる沈黙。壁にかけてある時計の針が、カチカチと決まったリズムで音を響かせます。
「……分かった」
沈黙を破ったのは、師匠の絞り出すような声でした。
「ほ、本当ですか!?」
バッと顔を上げる旅人さん。その声はとても弾んでいました。
「た、ただし!」
「ただし?」
「勝負は、別の方法で」
「別の方法?」
旅人さんは、不思議そうに首を傾げます。
師匠は、ギギギとぎこちない笑みを浮かべながらこう言いました。
「あなたが最初にやりたがってた、魔法を使った勝負でね」
…………そうきましたか。
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