大人で子供な師匠のことを、つい甘やかす僕がいる。

takemot

第0話 神様のバカ―!

「神様のバカ―!」


 辺りに響き渡る叫び声。


 はあはあと息を切らしながら全速力で走る僕。心臓はもう爆発寸前。ですが、足を止めるわけにはいきません。


 チラリと後ろに視線をやると、そこには僕を追いかける一体の魔獣。体つきや顔の様子はまるでオオカミ。ですが、頭は二つ。目は血走り、口からはダラダラとよだれを流しています。話し合いが通じる相手ではありません。


 なんでこんなことに。僕はただ薬草が欲しかっただけなのに。


「誰か助けて―!」


 再度僕は叫びます。ですが、助けなんて来るはずがないのです。だって、ここは、『迷いの森』と呼ばれる森の中なんですから。


 ああ、もう体力が。


 僕が諦めかけたその時でした。


 ドンッ!


 僕のすぐ後ろで鳴り響く音。


 思わず後ろを振り返ると、そこには異様な光景が広がっていました。


 魔獣は、何かに吹き飛ばされたように、遠くの方で倒れています。その手足はピクピクと痙攣し、起き上がろうとする素振りはありません。


 そして、魔獣が倒れている所と反対側。そこには、一人の女性。胸のあたりまである長い白銀色の髪。ルビーのように綺麗な赤い瞳。身にまとうのは真っ黒なローブ。


「ねえ、君」


 優しい女性の声。いまだに頭が混乱している僕。自分が話しかけられたことに気が付くまでに、数秒の時間を要しました。


「は、はい」


 僕は、緊張しながら返事をします。


 そんな僕に向かって、女性は優しくこう告げました。


「シチュー作れる?」


 それが、僕と『森の魔女』である師匠との出会いでした。

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