第16話 弟子ちゃんのそういうところが

「やあ、弟子ちゃん。昨日ぶりだね」


 町で買い物をしていた僕。その上から聞き慣れた女性の声。上を見上げると、ほうきに乗った郵便屋さんがフリフリと手を振っていました。


「郵便屋さん。今日もお仕事お疲れ様です」


「弟子ちゃんだけだよ。そうやってボクを労わってくれるのは」


 地面に降り立った郵便屋さん。その肩には、大きな鞄がかかっています。きっと、中には大量の郵便物が入っているのでしょう。


「そういえば、今日は、魔女ちゃんは一緒じゃないんだね」


 郵便屋さんは、僕の頭の上を見ながらそう言いました。三角帽子に変身した師匠の定位置となってしまったそこには、今は何も載っていません。


「師匠は今、湖にいるんですよ」


「湖っていうと、町の外れのやつかな?」


「はい。ちょっと事情がありまして」


「……なるほどね。ちなみに、弟子ちゃんは買い物かな?」


 郵便屋さんは、事情があるという僕の言葉にピクリと反応しました。ですが、深くそれに触れることをしません。これも、郵便屋さんが師匠と長く交流を持っている所以でしょうか。


「そうですね。お昼ご飯の買い出しです」


 僕は、手に提げていた袋の中身を郵便屋さんに見せました。袋の中には、パンがいくつかと、瓶詰のミルクが入っています。師匠曰く、「これから張り込みするんだから、パンとミルクは必須だよね!」らしいです。僕にはよく分からないですが……。


「実は、よく行くパン屋さんで、師匠が好きなパンが売り切れてまして。似たパンがないかなと思っていろいろ回ってたら遅くなっちゃいました」


「ありゃりゃ、それは大変だったね」


「まあでも、そのおかげで、いいパンが買えました。きっと、師匠もこれなら喜んで……って、何笑ってるんですか?」


「……フフフ」


 突然、ニヤニヤとした笑みを浮かべる郵便屋さん。一体何が面白いのでしょうか。それが分からず、僕は思わず首を傾げてしまいました。


 そんな僕に、郵便屋さんは一言。


「魔女ちゃんは、弟子ちゃんのそういうところが……なんだろうね」

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