第50話 すれ違い、の後。

「なんだか、逆にプロポーズされちゃった感じだなぁ」

「そうだね、思ってたのとは違ったけど」

 今日は背を向けられることもなく、ベッドに二人で横たわる。

「え、雫もプロポーズするつもりだったの?」

「というか、押しかけ女房みたいな? 迎えに来てくれなかったら、こっちから行こうと思って」

「それで履歴書?」

「みーちゃんの事、信じてないわけじゃないけど、人の気持ちは変わるから」

「私は……他のことはブレブレだけど、雫への気持ちは変わらないよ、絶対に!」

「みーちゃん」

 雫が目を潤ませて私を見る。

 あんなに遠くに感じていた距離が縮まる。物理的にも、手を伸ばせばーーいや、伸ばさなくても触れ合える。


「そうだ、あのレポートどうだった? 読んだんでしょ」

「え、あぁ……」

 あれ、イチャイチャモードなのかと思ったのにな、少しガッカリしたけれど。

「あれね、いいと思う」

 素直な感想を続ける。

「女性が気軽に一人旅が出来る宿とか」

「もちろん、二人でもグループでもいいんだけどね、一人旅のハードルを下げたいよね」

「あとはSNSの活用だっけ、それは雫に任せるよ。私は前の会社の人脈で海外からのお客を呼び込もうかな」

「いいねぇ、夢は広がるねぇ」

 二日前の機内では、雫とこんな話が出来るなんて想像すらしてなかったな。

 なんだか不思議だ。


「みーちゃん」

 擦り寄ってきて私の腕の中に収まる雫。

 手触りの良い髪を触り、頭を撫でながら、今度こそか? と期待に胸膨らむ。

 しばらくはジッとして雫の暖かさを堪能する。

「雫?」

 そろそろどう? と顔を覗く。

「あれ」

 スースーとまた気持ち良さそうに。

「寝てる」


 何かが頬に触れた気がして目が覚めた。

「おはよ」

 雫の笑顔が目の前にあった。

「ん」

「昨日、秒で寝たね、私」

「疲れてた?」

「そういうわけじゃないけど、みーちゃんに抱きつくとすぐに寝れるみたい」 

「あれ、それで前の晩も?」

「なんだ、ばれてたのか」

 クスクスと照れたように笑う。


「もう朝?」

「うん、今日ね、午後からの出勤にしたの。みーちゃんと一緒に出ようと思って」

「そう、じゃゆっくり出来るね」


「みーちゃん……キスしていい?」

「ん……」

 返事の前にもう口を塞がれていた。

 長いキスだった。

 これは、お誘いでいいんだよね?


 名残惜しく、唇が離れた時に聞いた。

「満足?」

「まだ」

「私も」

 今度は私から口付けて、雫に覆いかぶさる。




「ーーん、みーちゃん」

 こちらも、もっと長いキスをする。

「ーー朝、だよ」

「そうだね、朝だね」

 柔らかい首筋を軽く舐める。

「明るいのは、嫌?」

 窓の外からは、車の音や他所の生活音が聞かれる。

「ーー嫌では、ないけど」

 嫌だと言われても、もう止められないのだけれど。

「焦らす雫が悪いんだよ」

「ーーえ、焦らした? ーーあっ、んん」

 スウェットの上から強く胸を揉みしだく。

「その顔、可愛い」


「ーーっ! みーちゃーー」

「そう、もっと呼んで」

 雫の感じる場所を攻めながら、リクエストをする。

「ーーみーちゃん、いぃ」

 乱れながらも、私の名前を呼ぶ雫にゾクゾクする。

「ーーっは、もうーーみーちゃん、だめっ」

「雫、まだだよ」

 最初は、みーちゃんと呼ばれるのが慣れなくて、猫みたいだから嫌だなんて言ってたけど、今じゃ呼ばれる度に愛しさが募っていく。

「もっと感じてーー雫、愛してる」

「ーーみーちゃん、私もーーあっ、あぁぁ」




「ごめん、仕事前だから手加減するつもりだったのに」

 そんなこと出来なかった。

 愛おしすぎて、全力で愛してしまった。

「大丈夫?」

「じゃないよ、もう!」

「ごめん。今日帰るんだと思ったら、つい」

「罰として、みーちゃんはーー」

「え、なに?」

「クリスマスに、プロポーズをすること!」

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