第32話 拒絶

 タクシーを降りたら、冷たい空気が一気に体を冷やした。


 すっかり夜も深くなっていたので、泊まっていけば? と、みーちゃんは言ってくれたけど、帰らなければならない。


 さーちゃんに、ちゃんと話さなきゃ。


 怖いな。なんて言われるのか、どんな反応をされるか。違う……また、傷つけてしまうんだ。あんなに優しいさーちゃんを。どれだけ怒られても、なんなら殴られても、私は受け入れなければならないんだ。

「一緒に行こうか? 私が話そうか?」

 よっぽど不安な顔をしていたのか、みーちゃんがそんな提案をした。

「ううん、自分で話さなきゃ」



 ドアを開けると、テーブルに突っ伏して寝ているさーちゃんが見えた。

「さーちゃん?」

 近づいていくと、顔を上げたさーちゃんと視線がぶつかった。

「あ……」

 少し驚いたように一瞬目を見張り、そのあと無言になった。


「さーちゃん、あのね--」

「わっ、もうこんな時間。私、寝るね」

「ちょっと待って、話が--」

「聞かない、聞きたくない」

 さーちゃんにしては大きな声で言うから、驚いて二の句が継げなくなる。

 さーちゃんは部屋へ向かう。

「え、なんで……」

 追いかけて行くが、ノブに手をかけて止まる。

「顔見ればわかるよ、勝手にすれば?」

 背を向けたまま発した言葉は涙声で。

「ちょ、待ーー」

 バタンとドアが閉まる。


 部屋の中は暖房が効いていて暖かいけれど、私の手は冷たく震えていた。それが徐々に体全体を包み、肩も震えた。流れようとする涙を--違う、私が泣いちゃいけない--必死に止める。傷ついたのは私じゃない。

『ごめん』

 言えなかった言葉、伝えられなかった気持ち。

 キッチンへ戻れば、作りかけのケーキ。

 そういえば『おめでとう』も言ってなかったな。


 翌朝、さーちゃんは起きてきたけれど、目も合わせず浴室へ消えた。

 私は、いつものように朝食の準備をしていた。

「もう出るから、朝ごはん要らない。帰りも遅くなるから……出て行くなら、私がいない間に荷物も全部持っていって」

 冷たく言い放ったさーちゃんの目は赤く、少し腫れていた。

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