第19話 突然の

「さーちゃん、何のケーキがいい?」

「え、なに?」

 お互い、仕事初めで疲れたねぇって言い合った後、唐突な私の質問に対し困惑してるさーちゃん。

「さーちゃんのバースデイケーキだよ」

「へ?」

 さーちゃんの誕生日は1月7日。

 年明け早々なので、お正月と一緒にお祝いされちゃうって、昔から嘆いていたっけ。

「今年は、私が好きなケーキを作ってあげるよ」

「え、いいの?」

「なんでもいいよ」

「じゃ、チョコレートケーキがいいな」

「任せて」

 私は、頭の中でレシピを検索し、足りない材料を書き出した。


 誕生日の当日が日曜日だったので、ケーキは当日作ることにした。

 前日の土曜日に、デートっぽくショッピングをして、プレゼントを買った。

「これでいいの?」

「これがいいの」

 さーちゃんが欲しがったのは、犬のぬいぐるみ。子供か!

「いいなら、いいけど」

「可愛いでしょ」

「うん、可愛いけど」

「ぬいぐるみなら、嫌いじゃないでしょ?」

「まぁ、吠えないしね」

 犬嫌いな私でも、普通に可愛いと思う。

「子供みたい、とか思ってる?」

「そんなことーーある」

 そんな私の返事にも、ふふっと笑顔を見せるから、よっぽど気に入ったようだ。


 午前中にスポンジケーキを焼いた。

 さーちゃんも、手は出さないけど興味深そうに眺めていた。

「これから、どうするの?」

「冷ましてからデコる」

「へぇ」

「このレシピで作ろうと思って」

 スマホを見せて、出来上がりはこんな感じだよと、画像を見せた。

「おぉ、美味しそ」

 二人で眺めてたその時だった。


「えっ……」

 震えたスマホと、表示された名前に驚いて体が動かなくなった。

 震え続けているスマホをただ眺めて、思考は停止したまま。

「しーちゃん!? 出ないの?」

「えっ」


『みーちゃん』という表示を、さーちゃんも見たはずだ。

 さーちゃんの何とも言えない表情が、これが夢や幻ではないと言っている。

 そして、迷っているうちにスマホのバイブは止まった。



 辺りに静寂が広がった。

 自分の心臓の音がやけに大きく聞こえた。

「なんで……」

 さーちゃんの呟きは、私の呟きでもあった。

 お互いに目を合わせたその時、再び着信が入った。


 ビクリと体が反応し目が泳いだ。どうしよ……

 再び、二人の目が合った。


「しーちゃん、私が出ようか?」

「あ……ううん、私が」


 待ちに待った連絡のはずなのに、こんなに不安なのは何故だろう。

 通話ボタンを押すのに、こんなに躊躇うなんて。


「もしもしーーはい、ーーえ、そんな急にーー無理だよーーえっ、ちょっとーー」


 気付いた時には通話はとっくに切れていた。時間にすれば数分かもしれないが呆然としていたみたい。

「しーちゃん?」

 さーちゃんの声で我にかえる。

「え?」

「何だって?」

「会いたいって……いやっ、行かないよ! さーちゃんとケーキ作んなきゃだし……行けないよ」

 さーちゃんは何も言わずに私を見つめてた。


「お昼ごはん、作るね」

 体を動かして考えないようにしようと立ち上がり、キッチンへ歩く。

 どこかフワフワした感覚が常にあった。

 パスタを茹でながらも、今さら? って呆れたり。ずっと待ってるなんて言われても困るし。

 いや、もう考えるのやめやめ。


「ごめん、さーちゃん。パスタ茹ですぎたね」

「そんなことないよ、美味しいよ」

 そんなわけない。自分でも不味いと思うもん。

 それでも、さーちゃんは完食してくれて、そして言った。

「しーちゃん、行っておいでよ」

「え?」

「会っておいで」

「なんで、だって今日は--」

 さーちゃんの誕生日なのに。

「私のことはいいから。しーちゃんの……好きにして--思う通りにしていいから」

「さーちゃん」

 さーちゃんは部屋へ戻ってしまい、一人で考えることになった。どうするべきかを。

 そう、いつも誰かに頼って甘えて行動していた。私が自分で考えて行動しなければならないんだよね、自分の責任で。


「さーちゃん、行ってくるね。すぐ戻ってくるから」

 ドア越しに声をかけた。

 返事はなかった。


 私は、みーちゃんに会いに行くことにした。


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