第38話
「こちらでお待ちください」
街の商工会を訪れ、受付の女性に案内された一室の椅子に腰かけます。
十人くらいが入れる会議室かしら、椅子も長テーブルも客をもてなすというよりは簡易的で、必要な物だけ揃えたという感じ。
でも部屋の飾りつけ、特に絵画や工芸品が飾られているのが気になる。
それに受付の女性が用意したお茶とお茶請け……結構な高級品じゃない?
扉の前で男性数人の話し声が聞こえてくる。
戸が開いて四人の男性が入って来た。
「お待たせしたね。ああ、立たないで結構ですよ」
立とうとした私を手で制し、四人の男性は私の正面にすわる。
「突然呼び出して申し訳ない。君には色々と確認をしないといけない事があるのでね。私はアトレーです、よろしく」
私の正面左側に座っている男性、体格がしっかりしているオールバックの白髪、切りそろえられた口の周りの白髭、どちらかというと商工会にいるよりも貴族の護衛をしていそうな感じだ。
「私はウェイク。お前には色々と容疑がかかっている。包み隠さずに全てを話せ」
正面右側の男性、とても気難しい顔をした体のまん丸な中年男性だ。
随分と高級そうな服装と楕円形でつばのない帽子をかぶっている。
両端の二人はエッセさんとクーさんらしいです。
若い二人は自己紹介はしてくれましたが、お付きの人なのか何もしゃべりません。
「さてシルビア君、まず確認をしたいのだが……ここに呼ばれた理由はわかっているね?」
「いえ、心当たりはありませんが……」
「ふざけるな! お前のせいでみんな迷惑しているんだぞ!」
「こらウェイク、まずはしっかりと話を聞いてからだと言っただろう」
「そんな悠長なことをしている場合ではないだろう! この小娘のせいでこんな事になっているんだぞ!!」
私のせい? 私は知らない間に何かしてしまったのでしょうか。
しかし商工会関連、商売に関わる事は最近何もしていないはずですし。
「だから本人に確認をするんだろう? すまないねシルビア君、わからないのなら説明するが、まず一つ」
まず一つ⁉ 私はいくつもやらかしたんですか!?
「君が考案したという育児部屋、アレにはどういう意図があるんだね?」
「育児部屋ですか? 意図と言われましても、お屋敷の使用人が年配の方ばかりなので、もっと若い年代の使用人が働きやすいようにと考えました」
「ウソをつくな! 子供に虐待をしているという事はわかっているんだ!」
「虐待⁉ それはありえません!」
「おいウェイク、その話しは違うと結論が出ただろう」
「俺は騙されんぞ! 子供を虐待し、奴隷の様に酷使しているんだろう!」
「待ってください! どこからそんな話が出てきたんですか!」
虐待? そんな事あるはずがありません。
一体どういう事でしょう、いえ、ひょっとして私が知らない所でそんな事があったのかしら、だとしたら調べないといけませんが、お屋敷にいる子供たちは誰とでも楽しそうに遊んでいますし、虐待されていたら態度に出るはずです。
「では二つ目、君の本当の雇い主は誰かね?」
本当の雇い主?? エクストレイル様よね? あ、ひょっとして王族の預かりになっているからそちら
でも今の雇い主はエクストレイル様よね。
「……エクストレイルさ――」
「今の間は何だ! 本当の雇い主の事を言わないように考えていたな!!」
「違います! 本当にエクストレイル様です! ただひょっとしたらへい――」
「兵⁉ 兵士か! どこの兵士だ!」
兵士⁉ どこからそんな言葉が出て来るんですか!?
えっと、状況が全くつかめないわ、一体私はどこに来てしまったのでしょう。
「ウェイク黙れ。次に三つ目だが、クラウン帝国を知っているか?」
「クラウン帝国? エルグランド王国の東にある国です」
「見ろ! やっぱりこいつは帝国の回し者だ!!」
回し者? それって帝国のスパイって事? 一体どこからそんな話が出てきたの?
それにまるで私が犯罪者みたいな扱い……これはひょっとして尋問なのかしら。
「ウェイク! うるさいと言っているのがわからないのか! ああシルビア君、今日はもう帰っていいよ」
「なにを言っているアトレー! こいつは捕らえて牢に閉じ込めるべきだ!」
「あの、一体何なんですか? 人を呼びつけておいて意味不明な罵詈雑言を浴びせられて、もういいから帰れなんて」
「すまないね、この話しは後日改めてするよ」
私は部屋を追い出されるように出てきました。
……な、なんなんですか一体!
このままお屋敷に帰ると顔が強張ったままになりそう、少し歩いてから帰りましょう。
しばらく街を歩き回り、日ごろお世話になっている人達とお喋りしたら気が晴れました。
それに貰い物が手で持てない程になったから帰るとしよう。
「そうか、そんな事があったのか。大変だったね、明日はお休みにしていいよ」
エクストレイル様に報告すると、明日はお休みしてもいいそうです。
しかしお休みしたら思い出してしまいそうなので、通常通りに働く事にしました。
そうよ、まだまだやりたい事がいっぱいあるんだから、あんなこと言われただけで落ち込んでる暇なんて無いわ!
しかしそれから数日が過ぎたある日、ある噂が街の中に広まっていました。
ついに戦争が始まる、と。
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