第35話
プリメラ達の滞在日数は七日間。
仕事を早く終わらせればそれだけ多くの時間を一緒に過ごせます。
なので私は日常清掃と他のメイド、他の係とも連携を取って素早く、そして他の人も仕事がしやすいように動きます。
「ふぅ、今の仕事内容だったら午前中で終わるわね。よし、確かエクストレイル様は午後はお屋敷にいらっしゃるから、その時にお話をさせてもらえるか聞いてみよう」
私は執事さんにお願いしてエクストレイル様に面会を申し入れました。
面会は問題無いようでOKだそうです。
「シールッビア、午前の仕事は終わりでしょ? 少し早いけどお昼にしましょ」
「あ、はいプリメラ。ではお昼の準備をしますね」
プリメラ達がそろっていますので、お昼は学園にいた時の様に庭の芝生でいただく事になりました。
これは昨晩いきなり決まったのですが、キッチンの方にお願いして朝早くにマーチと一緒にサンドイッチとおかずを数品作りました。
ええ、プリメラからもリバティ様からも、リック様とセフィーロ様からも好物のご注文を頂きましたとも。
学園っぽく竹編みのお弁当箱数個に分けて運びます。
マーチと一緒に運んでいると声をかけられました。
「おいシルビア、そろそろ飯の時間だから食堂に行くぞ」
「オッティ、すみません、今日はお客様と一緒にお昼を頂きますので」
そこでようやくマーチの存在に気が付いたのか、慌ててハンチング帽を脱いで挨拶をします。
マーチは伯爵令嬢の付き人なので、普通の使用人よりも少し立場が上です。
「お、おう、じゃあまた後でな」
小走りで去るオッティを見送り、私とマーチはみんなが待つ庭へと向かいます。
「ねぇねぇシルビア、あの人誰? くふふ、付き合ってるの?」
何が面白いのかマーチはニコニコ顔で口を手でふさいでいます。
「違いますよ。オッティは少し素直になれない真面目な人です」
「へー、素直になれない、ねぇ」
みんなが座っている場所に到着し、お弁当箱を並べます。
その時にマーチがオッティの事を面白おかしくみんなに伝えました。
「誰それ……だめだよシルビア、知らない人と話をしちゃ」
「俺の嫁に気安く声をかけて欲しくないものだな!」
「ふっふっふ、ワタクシのシルビアに色目を使おうっていうの? その喧嘩買ったわ!」
「ちょっと待ってください! ですからオッティはこのお屋敷の庭師なんですってば!」
なんで三人が意気投合して燃えているんですか!?
オッティとはただの仕事仲間なのに。
そして久しぶりですが、私の左右にはセフィーロ様とリック様が陣取っています。
御二人とも背が高いので私との段差が凄いことに!
ん? いま後ろの木が揺れたような気がしたけど、気のせいかしら。
昼食は皆にからかわれ、そろそろ仕事に戻る時間です。
さて、エクストレイル様の執務室に向かいましょう。
「子供の預かり所? なんだいそれは」
「今領地には若い人が少なくなっていますが、居ないわけではありません。しかし若い人でも小さな子供がいる家庭は、女性が子供を背負ったり連れ回して仕事をしています。これでは安心して子育てができません。なので子供を安心して預けられる場所を作り、より多くの人に安心して働いてもらう、というものです」
「背負って働けるなら、それでいいんじゃないのか?」
「それだと仕事が制限されてしまいます。例えばこのお屋敷では子供を背負って仕事をするのは難しいと思います」
メイドにしても何にしても、お客様の目がある場所で子供を背負って応対をするのは難しいし、他の貴族が訪問して来たらとても失礼になる。
「う~ん、そんな事で若い人が来てくれるかな」
「まずは領主であるエクストレイル様がお手本を示し、子供を育てやすい環境を率先して作る事です。領地から出ていかれるのが一番困りますから」
「まあそれはな。なら試しにやってみるか、広い部屋ならどこかに空いているだろうしね。準備は頼むよ」
「はい! ありがとうございます!」
執務室を出て直ぐに執事さんとメイド頭に声をかけます。
二人には軽く話をしてあるから後は実行するだけ。
「ではシルビア、手の空いている者を自由に使ってください。メイド頭は空き部屋の掃除と必要な物を揃えてください」
「はいわかりました!」
「あいあい、わかりましゅたよ」
御二人とも子育て経験があるので、色々とアドバイスをしてもらおう。
さて、私は修繕係に行って来ましょう。
準備自体は五日間で終わり、十人以上が入れる育児部屋も一通り完成しました。
ベビーベッドや危なくないオモチャ、お絵かき道具や小さなテーブルとイス。
きゃ~テーブルもイスも小っちゃくてカワイイ!
「後は新人さんの募集要項を詰めるだけですね」
育児部屋を出ようと扉を開けると、目の前には茶色の壁がありました。
あら? えっと?
「きゃっ!」
私は肩を押されて育児部屋に押し返され、壁に押さえつけられました。
「シルビア、あの男達は何なんだ!」
「え? あ、オッティ?」
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