第23話

 元男爵に服を破られ、無理やり石テーブルに寝かせられます。

 こ、こんな事……っ! なんで、どうして体が動かないの!


「震えているのかぁ? 安心しろ、痛いと思う事なく逝かせてやる」


 何とか両手で前を隠していますが、ダメ、元男爵が私の手をどかそうと手首を掴んできました!

 いや、イヤッ! 誰か、誰か!!

 目を固く閉じて目の前の事から逃げようとしますが、余計に元男爵の熱が伝わります。


 ああ、こんな事ならせめて、せめて好きな人と初めてを……


「カッカカカ、どうした目を開けろ、俺の顔をよ~っく見ていゴピャ!!」


 目を開けろといわれて開けたら、いきなり元男爵の姿が無くなりました。

 ……え? あれ? 夢だったんでしょうか??


「シルビア大丈夫か!!」

「シルビア! ……よかった」


 元男爵の代わりにセフィーロ様とリック様が目の前に現れました。

 あ……間に合った……んですね。


「シルビアー!」


 お二人を跳ね飛ばしてプリメラが私に抱き付いてきました。


「シルビア、シルビアごめんね! もっと早く来ないとだめなのに!」


「プリメラ、大丈夫です。命はもちろん、私はどこも痛くありませんから」


「そんなわけないじゃない! シルビアの体を見ていいのはワタクシだけなの!」


 ……それはそれで少し寂しくありませんか?

 私だって女の子、好きな男性に身を捧げたいと思うのはおかしくないはずです。

 そんな相手は今のところいませんけども。


「あのプリメラ……シルビアにマントを……」


 リック様が……あら? この衣装は初めて見ますね。

 白い軍服? に表は白で裏が赤いマントを羽織っていますが、そのマントを外して私に渡そうとしてくれています。


「さあシルビア、このマントをはおって」


 リック様からマントを奪い私にかけてくれました。

 

「ありがとうございますプリメラ。リック様、セフィーロ様、助けに来ていただきありがとうございます」

 

「いやいや~、俺がシルビアを助けるのは当り前さ」


「シルビアは……僕の大切な人だから」


 本当に二人には感謝しかありません。

 マントを体に巻いて立ち上がると、元男爵やサクシード侯爵、ヴュー様が兵士達によって捕らえられていました。


「くっ! おのれ小娘め! 最初から私達を騙していたのだな!」


「いいえサクシード侯爵、私は何もウソはついておりません。あなた方が勝手に勘違いをして、勝手に私を生贄にしようとしてベラベラしゃべり、そして捕まったのです。私は最初からご子息のグランビア様に謝りたいと思っていました。なのになぜかこのような場所で生贄にされそうになり、さらに乙女の危機まで……うっううっ」


 怖かったのでちょっとウソ泣きをして仕返しをしました。

 いえ本当に怖かったんです、本当はもっと意地悪をしてしまいたいくらいに。


「でもあなたが無事でよかったわ。まずはお疲れ様、そして……」


「そして?」


「……帰ったらお説教よ」


「え!? どうしてですか?」


「当たり前でしょ! あなたは生贄になる危険があったのよ!? それを許したワタクシやお父様、お兄様やリックを許せない気持ちでいっぱいだわ!」


 そうですね、本当に皆さんにご心配をおかけして、ご迷惑をおかけしてしまいました。

 これは素直にお説教されるとしましょう。

 サクシード侯爵の屋敷を出た後はアベニール様の屋敷へと向かい、みんなでプリメラにお説教をされました。


 サクシード侯爵家はサターン教の拠点になっていたため取り潰しとなり、家宰かさいであったヴューはサターン教から派遣された人物であったらしく、色々な情報が入手できると期待されましたが、残念ながら自害してしまったようです。

 

 当たり前ですがサクシード侯爵の子供であるグランビアは学園を退学、一族は王宮の預かりとなりましたが、よくて死ぬまで牢獄、恐らくは公開処刑となるでしょう。

 そして元男爵ですが……自分の領地の管理不行き届きもあり、サターン教の実行犯の一人として投獄されました。


 もう私の手を完全に離れてしまいましたね、ようやくホッとひと息つきました。


 時は過ぎ、私がプリメラに仕えてから半年が経ち、学年が一つ上がりました。


「シルビア、来年からもよろしくね!」


「ええもちろんですプリメラ」


 しかしここでひと悶着ありました。

 以前プリメラの付き人をしていた方の怪我が治り復帰したのです。

 学園に同行できる付き人は一人だけ……私はお役御免でしょうか。

 プリメラは私を見て「あっあっ」といい、以前の方を見て「あっあっ」といいを何度も繰り返して困るばかりです。


「プリメラ、順調にいっている状態を変える必要はないわ。私なら大丈夫、丁度私を誘ってくださる御方がいるから、そちらのお世話になろうと思っているの」


「ごめんね、私のせいで怪我をしたのに」


「かまわないわよ、たんまりと謝礼金をもらったからね」


「もう、あなたったら」


 そうして以前の付き人は学園を去っていきました。

 新学期が始まるまではしばらく学園はお休みなので、私達はアベニール辺境伯の領地へ戻ろうかと話をしていました。

 しかし。


「シルビア、ワシと一緒に王宮へ行くぞ」


 アベニール様に呼ばれて二人で王宮へと向かいました。

 一体何かしら。

 お城に入ると……うわぁ……アベニール様のお屋敷も豪華だったけど、やっぱりお城は更に豪華ね、別格だわ。


 アベニール様はある一室に入り、私も一緒に入ります。

 すると中にはいかにも高貴そうな方々が男性四名、女性六名いました。


「いやよ! こんな女を王宮に仕えさせるなんてごめんだわ!!」


 なんの話し⁉


 

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