第45話 西岡、変なもの貰う
マノウという少年を追う。
小早川さんは魔法で見た映像を言葉にすることで、それを似顔絵捜査官や、警官が文章や絵にしていく。
かなり断片的な映像らしく、プロの捜査官といえども時間はかかったが小早川さんが、刑事だったころから一緒にやっているメンバーということもあり、阿吽の呼吸で作業は続けられた。
ある程度マノウという少年の絵が完成した。
たしかにあの日、自分が見た彼の姿だった。某有名RPGの主人公のような完璧な容姿そのものだ。また再度、野球場でもその姿を見ている。
そして小早川さんの記憶は、一つの建物を示してもいた。
これらの情報により捜査方針が決まり、即座に僕たちは動いていた。
逃げられないように警官も建物周辺を囲んでいるが、直接対峙するのは魔導官のみとされた。
空も飛べる魔法使いは、常識では測れないのだ。
権藤さん、小早川さん、そして僕。やはり黒木さんの姿はなかった。
それから数々の魔道具を開発担当という鎧井という人も参加した。彼女は青白い顔で目を覆い隠すように髪が長く、絶対に人と目を合わさないようにしている様子から、一目で僕以上のコミュ障ということがわかる人だ。
「き、基本的に私は、力仕事向いてません」
そう小さな声で言っていた。
「えええ?」
そういわれたもどうすればいいのか。
「あの、これ贈り物です」
そう言いながら手を握られ、何かを手の中に入れられた。柔らかくて、なんだろう、もさもさする。
一応女性なので少しドキドキする。
いや、黒木さん派だよ? まだ。
手の平を開けると、毛髪の束が入っていた。
あまりに気味の悪い贈り物に、それを握ったまま固まっていると、彼女は顔を俯かせたまま続けた。
「それ、私の髪なんです。大事にしてください」
そういうと照れたような表情でどこかへ行ってしまった。
まあ、あまり表情は見えてないのだが。
「ど、どうすれば?」
「よかったじゃねえか。お前気に入られたぜ。それ、たぶん魔導器だぜ」
「え、え?魔導器?」
「お前、専用だろうな。見たことない」
魔導器といえば、魔法感染者を拘束させる際に使うUSBメモリ、呪縛に代表される魔法のグッズだ。一人二つしか使えない魔法の制限を拡張させるお助けグッズという感じだ。
わざわざ専用のものをつくってくれたというのだろうか。
それにしては、怨念というか愛を感じすぎるのだが。
とりあえず捨てるわけにもいかず、ポケットの中にねじ込んだ。
一つの雑居ビルにたどりつく。
意外なことに僕が通う透晶高校にほど近い場所だったことに驚く。
――だから魔法の受け渡し場所も近かったのか。
魔法の入ったUSBメモリを思い出す。
目の前の権藤さんが立ち止まり、無言で合図を送る。
――俺が先に入る。
そして、小早川さんが囁く。
――権藤を援護する魔法の準備しろ。
――俺は戦闘には向かん。
ほぼ戦うの、二人じゃないですか。
そう言われてスマホの画像アプリから魔導円の画像を開く。
そのほかには、ポケットにチョークや、エアスプレーなども入れている。いざというとき、どんな素材にでも魔導円を描く必要があるからだ。
エアスプレーでうまく円を描く練習もしているが、いまいち精度は上がっていないのだが。
ガラスが床に散らばっている。それを踏む度に割れる感触がする。
薄暗く、そして埃ぽい部屋だ。しばらく慎重に歩を進めていく。
鼻をつく妙な臭いがする。
生臭い不快な臭いだ。
あの奥だ。
中に入り、ギョッとする。
人間だったもので溢れかえっていた。
それらは一斉にこちらを見た。
人間のはずなのに、魚のように目が左右にへばりついた男。
「ふgはgddっどぅつ!」
わけのわからない言葉を垂らしながら飛び掛かってきた。
焦ってスマホが取り出せない。
「おら!」
権藤が手にした警棒で殴った。
強烈な一撃で、魚男は部屋の端まで飛んで行った。
「焦るな、ガキ。お前は後ろから援護しろ」
そういうとなぜか全身裸で飛び掛かっていった。
ただ、全身の筋肉が見たこともないくらいに膨れ上がっていた。
――彼は肥大しすぎた自分の筋肉で窒息したんだ。
以前、彼から聞いた言葉を思い出す。
「1,2,2」
僕もスマホの魔導円を掲げた。
放たれた魔法の弾丸が、牙をむいていた女に突き刺さる。
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