第11話 西村くん

 僕の頭の中に魔法の行使結果が返り値となって戻ってきた。内容は失敗。エラー内容は相手先に到達できません。


 どういう意味だ。


 信じられない思いで自分の手のひらをみる。前回はこれでうまくいったのに。

 もう一度やってみるか?しかし、何回もこんな大きな魔法を使ったことはない。マニュアルを読んだ限りでは、魔法の使い過ぎは人体に重大な影響があるということだった。どんな影響だかはわからない。今は少し頭が痛いくらいだ。まだ大丈夫。

 深呼吸し覚悟を決める。


 やるしかない。


 そう決意したとき、声がした。


「止めとけ」


 誰もいないはずの屋上での突然の声に全身が総毛立つ。

 なんて言い訳しよう。立ち入り禁止の屋上で何をしていたといえば……

 ゆっくり振り向き、驚愕した。


 そこには少女が立っていた。いつも自分が見ていた想い人。


 黒木レイだった。


「な、なんで……」


 呆然とつぶやくと彼女もこちらに気づいたらしく、顔を歪めた。

 屋上の照明に照らし出された長い透き通るような茶髪。女性らしいしなやかな細い体を黒いワンピースで覆っている。 


 いつも教室で見る彼女とは何か違う気がする。そういえば私服姿を見るのは初めてだった。少し大人っぽく見える。


 事情はわからないが、見られてしまった以上言い訳がいる。なんと言い訳しようか頭をフル回転させていると、彼女はこういった。


「西……村、君だっけ」


 そのつぶやくを聞いて、何かが壊れたのがわかった。

 彼女は僕の名前を憶えてない。一方的な想いだった。その事実に気が付き、頭の中が真っ白になった。彼女は何か後悔するような顔をして近づいてくる。


 僕は自分の呼吸が乱れてるのがわかった。動揺しているのだ。膝が震え、立っていられない。いますぐに座り込んで泣き叫びたかった。


「あーなんていうか」


 彼女は言いにくそうに言い淀んだ後、


「君が村上君に魔法をかけていたってことで、いい?」


 村上。あいつの名前はしっかり憶えている。魔法をかけていたことがバレたことより、彼女が自分の名前を憶えていなかったということのほうがショックを受けていた。


 近づいてきた少女の白い手が伸び、僕の襟元に手をかけた。

 柔らかな冷たい手。

 そう感じた瞬間、襟元が完全に露出されてしまっていた。素早い手慣れた動作だ。

 USB端子が見えている。


「……君はどうやってその魔法を手に入れた?」


 さきほどまでの口調とは違う。有無を言わさぬ強い口調だ。学校では決して聞いたことのない口調。同級生相手には使わないような、どこか上から目線の強さを感じる。


 こちらが本当の彼女なのか?そもそも同級生に咎められないといけないのか。

 自分の心を弄ぶような、こんな女に。


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