第40話 討伐隊メンバー

 寮の部屋に突然訪れたのは、アルシアだった。



「アルシアが部屋に来るなんて、珍しいな」

「あ! アル姉だ!!」

「ちょっとお邪魔してもいいかな?」

「アルシアなら大歓迎だよ!」



 アルシアが部屋に来るのは初めての事だ。こんなタイミングだから、どんな用事で来たかは大体想像がつく。


 とりあえず、アルシアとミルネには椅子に座ってもらって、俺はベッドに座ることにした。椅子が2つしかないからな。



「ねぇ、聞いたんだけど、真由が討伐隊の隊長に任命されたという話は本当なの?」



 やっぱりか!



「本当だよ。だから今メンバーを集めているところ……と、言ってもミルネだけなんだけどね」

「えっへん!」

「なぜドヤ顔?」



 なぜ、ミルネがドヤ顔なのかは全然分からないが、アルシアは冴えない表情をしていた。



「真由、討伐隊はそんなに甘くはないわよ。最低でも4人は必要よ」

「うーん、でも募集活動したら怒られたしな。どうしたものか……」



 俺がそう言うと、アルシアは改まった表情で語った。



「よかったら、私をメンバーに入れてくれないかな?」

「うん、えっ!?」



 アリシアの突然の提案に俺は驚いた。


 さっきのミルネとの会話で、アルシアはもう討伐隊に所属しているから、新たに別の討伐隊に所属するのは不可能で、そういう選択肢は無いものだと思っていたからな。

 

 それにいいんだろうか? こんな泥船に乗って。



「アルシアが入ってくれるのは願っても無いことだけど。でも、アルシアって、ダンロッパの討伐隊のメンバーだろ? 掛け持ちとか出来るのか?」


「掛け持ちは禁止されてるわ。でも、大丈夫よ。私、討伐隊ロイヤルクラウンを辞めたから」

「ええぇぇぇぇぇぇ!!」

「あ、アル姉! それ本当!?」



 またもや、俺はアルシアの発言に驚いた。この世界では討伐隊は憧れそのものだし、その中でトップの討伐隊を辞めるなんて……いや、俺を助けたせいで、辞めさせられたのかもしれない。



「もしかして、それは俺のせい?」

「そうだよ、真由」



 俺はアルシアがそう言った瞬間、ベッドから床に飛び込むようにジャンピング土下座をした。恐らく、2秒もかかってないはずだ。



「ごめんなさい! 俺みたいなもんの為に、こんな事になってしまって」

「ち、違うの、そういう意味じゃないの。顔を上げて真由」



 アルシアは慌てて、土下座をしている俺の前にしゃがみ込んで、手を差し伸べた。 

 俺は言われるまま、顔をゆっくりと上げた。



「げっ、い、いや、あの」



 すると目の前にはアルシアのピンク色のパンツがもろに見えていた! しかもこんな間近で! というか、脚が綺麗だ。


 俺もミルネもガキっぽい身体しているから、年上のアルシアは大人っぽいエロさがある。



「ん??」



 アルシアは気づいていないようだ。いや、女の子同士だから気にしていないだけかもしれないな。というか、こんな真剣な時に何を考えているんだ俺は!?

 

 俺はそれから素早く上体を起こし、その場で座った。



「い、いや気にしないでくれ。それより『そういう意味じゃない』ってどういう事?」

「うん、自分から辞めたの。前からダンロッパさんのやり方に疑問を持っていて、それが本当に正しい事なのか分からなくなっていたの」


「そう言えば、前にも言っていたね。そんなに酷いの?」


「うん、この前のカリバーさんとマリさんの捜索の件も、実は何もしていなかったのに、あたかも捜索したみたいに演説していたし。魔王軍の方が危険度は高いはずなのに、ベルリア学園の動向ばかり気にしていたし。Sランクという立場を利用して、ランクの低い女の子に手を出していたし。モリモンさんと結託して、ダンロッパさんに誰も逆らえない体制を作ろうとしているし。討伐隊を私的利用――」


「わ、分かった! 大体分かったからもういいよ」



 このまま喋らせたら、朝になりそうだ。アルシアも見かけによらず、大分不満を抱えていたんだな。



「そんな疑念を持っていたのに、何も出来ずにいた時に、ダンロッパさんに立ち向かう真由を見て『変わらなきゃ』っと思ったの」


「そうか、そういう事か。でもアルシアがメンバーに入ってくれるのは助かるよ。経験者だしな。なんだかいけそうな気がしてきた」


「でも、編成するには、あともう一人はいるわ」

「あと一人か……」

「ふっふっふ……」

 

 

 すると、しばらく会話に参加していなかったミルネが、この流れを「待ってました」と言わんばかりに自信満々に話始めた。



「マユリン、もう一人の事なら秘策があるよ」

「なんだ? 秘策って?」

「ふっふっふ……マユリンがミリちゃんを誘えばいいんだよ」

「……」



 これは秘策なのか? どこに秘策の要素があるんだろう。



「いや、そんなに自信満々に言われても……知ってるし」

「えっ?」

「もしこの状況を100人が見ていたら、99人はミリちゃんを誘うことを考えるだろう。しかし、俺は敢えて言わなかっただけだ。その理由も97人ぐらいは分かると思うぞ」


 バシッ


「マユリンのばか」

「痛い……」

「ふふふ、でも、いくら真由でもミリちゃんは難しいと思うよ。ミリちゃんには討伐隊に入らない理由があるみたいだし」


「理由ねぇ……。前に何かあったのかな?」



 Sランクだから、これまで討伐隊の勧誘はいっぱいあっただろう。それを全部断ってきてるわけだから、何か理由はあると思うが……単純に戦闘が嫌いなだけとか。



「大丈夫アル姉! マユリンの誘惑には勝てないよ! あたしが保障するよ!」

「なんでそんなに自信満々なんだよ!」

「ふふふ、もしかしたらあるかもね」



 恐らくアルシアの反応は、冗談に合わせているのだろう。

 

 それにしてもミルネの自信はどっから来るんだろうな。でも、俺が誘ったら、確かに首を縦に振ってもおかしくないような気はするが。



「じゃあマユリン、今から行くよ」

「本当に誘うのか……」

「私は出来る限り準備しておくわ」



 こうして俺とミルネはミリちゃんを勧誘しに部屋に向かい、アルシアは討伐隊の準備をする為、自分の部屋に向かった。

 同じ建物だから途中までは一緒に行ったんだが。


 Sランクのミリちゃんがメンバーに入れば、それはもう歴とした討伐隊になるだろう。

 しかし、その分の高い代償を俺が払わないといけない気がしてならない。だから、ミルネが言い出すまで黙っていたのだが、果たしてどうなることやら。

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