第7話 制服デート
俺達は電車に乗って繁華街に向かった。流石にこれだけの人前に晒されると、恥ずかしくてあいみを盾にするように歩いてしまう。
それに、道中すれ違う男性陣は、自然を装ってチラ見をしているのが、なんとなく分かってしまうから余計だ。
そして、あいみとしばらく歩いていると、何かを見つけたのか、急に足を止めた。
「ねぇ、このお店に入ろう」
「げっ、女性用の下着屋じゃないか!?」
「異世界に行くなら必要でしょう?」
「確かに必要だけど……」
真面目に言っているのか、からかってるのか分からない。
お店の中には、当然だが女性客しかいなかった。男にとって、一生この空間には入ることはないだろう。だからある意味この空間は、男には異世界かもしれないな。
あいみは相変わらず燥いでいて、色々な下着を持って俺に見せてくる。どれを買えばいいか分からないから、勝手に選んでくれた方が、助かるかもしれない。
その後もお店を変えて服や小物を買ったり、メイクしたり、プリクラも撮った。
そして、最後に女性歌手の歌しか歌えないカラオケをして、明日異世界に行くとは思えないほど、遊んでしまったのだ。
あいみと一緒に行動して思ったんだが、女性は髪、メイク、服のコーデに手間とお金をかけ、自分の可愛いを追及しているように思えた。
男は物にお金をかける場合が多いからな。
だから、褒めるつもりで女の子に「スッピンの方が可愛いよ」と言っても、それは自分のお洒落が否定されたような気持ちになってしまうんじゃないのかな?
うーん、なんか色々と発見はあった。そう考えるとこの罰ゲームでしかなかった『制服デート』も、今となればあまり悪くなかったかもしれない。
――そして、空の色はすっかり夕焼けに染まり始めた頃、俺とあいみはこじんまりとした喫茶店にいた。
「あいみ、今日はありがとな」
「えっ? 怒ってないの?」
おお、一応気にしてくれていたんだ。
「明日の準備の買い物も出来たし、あいみがいなかったら気付かない事もあったし、割と楽しかったよ」
「なんか、そんなこと言われると……照れる」
「あ、ちょっと顔が赤いぞ」
「ばか!」
いつもの感じになってきたぞ。あいみも疲れたのか、大人しくなったな。
「どうした? 疲れたか?」
「……。明日、異世界に行くでしょう……。これでも心配してるんだからね」
「ああ、ありがとう」
「あと、これ……」
あいみは顔を赤くしながら視線を下げ、手を差し伸べて俺に何かを渡そうとした。
2個セットになった変なポーズをした熊のヌイグルミのキーホルダーだ。
「なんかこれ癒されるなぁ。ありがとう」
「私が一人で上京した頃、寂しい時にによく眺めてたの」
「本当にもらってもいいのか?」
「うん、だってこれから先輩は、家族も友人も知り合いもいない、遠い場所にたった一人で行くんだから。寂しくなる時があると思って」
「ありがとう」
あいみは真剣な表情をしながらも、どこか寂しげに雰囲気を漂わせながら、俺にキーホルダーを渡した。
なんだかんだ言ってあいみは、俺の事を心配してくれたようだ。
「必ず、無事に帰って来てよ」
「おう、俺に任せておけ」
「はい、アウト!」
「えっ!? この流れでまだ言うか!」
「あたりまえじゃん。何言ってるの」
お前が何言っているんだよ! 俺の事を心配してくれてたんじゃないのかよ!! でも、俺もこの真由に大分慣れてきたし、反撃してやるか!
「そんなこと言ってると、やり返すぞ!」
「いいよ。ほら、おいで」
「うっ、そう言われるとやりにぬくい!」
「私は遠慮しないよ。えい!」
「い、いや、ちょっとそこは……うっ、や、やめろ! 変な気持ちになるからぁ!!」
――こうして『制服デート』は無事に終了し、一旦組織に戻り、そのまま組織の人間に車で自宅まで送ってもらった。
俺が着てきた服は無垢朗に処分されていたので、制服のままだ。
無垢朗のやつ、俺を元に戻そうとする気は皆無で、むしろ自分が美少女になる為の研究に没頭していやがった。
ちゃんとやれば、元に戻る方法を見つけ出してくれると思うんだが、腕は確かだからな。
でも、本人がその気になっているのかが問題だ。
ふぅー、それにしても今日は疲れた。あいみに振り回されたからな。
結局、異世界の情報は何一つ調べられなかった。
はぁ……美少女も楽じゃあねなぁ。早く風呂入って、寝よ。
俺は脱衣所で制服を脱ごうと、ブラウスのボタン3個外し、リボンを緩めてだらーんとさせた時にふと、鏡に自分の姿が見えた。
あ、これエロいなぁ。
また少しポーズを変えて、映る姿を楽しんでいると、ふと気が付いた。
なんであいみがやたらとイジってくるのが分かってきた気がする。
俺はそれを試す為に鏡の前で、本気のテンションでこう言ってみた。
「お前! いい加減にしろ! 本気で怒るぞ!!」
やはりそうだ。例えるなら、大型犬に吠えられ威嚇されると、マジでビビるが、子犬に威嚇されてもそれはただ可愛いというだけで、ビビる事はない。
むしろ余計にちょっかい出して、からかってしまいそうだ。
逆の立場なら俺もからかってしまう。
つまり、下手に怒っても可愛いだけなのだ。
もしかして異世界でも俺は、あいみみたいにイジられてしまうのであろうか……。
まぁ、いいや。風呂に入るか……。
――風呂から上がると1時間ほど経過してた。なぜ1時間もかかったのか、説明するまでも無いだろう。
むふふ……これぐらいの特典があってもいいだろう。
俺は、あいみが選らんだ可愛いパジャマに着替えて、寝室に向かった。
このパジャマに着替えたら幼女でもいけそうだな……。
本当にこれで学園に入れるのか?
とりあえず、このパジャマは置いておこう。俺が買ったジャージで十分だ。
今日はさっさと寝よう。もしかしたら、明日起きたら元に戻っているかもしれないしな。
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