第4話
6月30日、水曜日。自宅にて。(3回目)
もはや3回目となると慣れっこだ。
高崎さんとは難なく勉強会の約束をし、今のこの状況を冷静に考えることにした。
前橋さんに確認しても、やはり《巻き戻し》が起きたことなど気付いてもいないようだ。
それとなく確認してみても「頭は良くても中身は哀れ。これでは一生童貞ね」といつにもなく辛辣なお言葉。
俺への罵倒ディクショナリーに新たな文章を刻んでくる。
今まで《巻き戻し》なんて現象が起きたことはなかったし、聞いたこともなかった。
しかし、現実に起こったんだ。
しかも2回とも高崎さんの告白のときに。
認めたくはないが、仮に告白されることが《巻き戻し》のトリガーなのだとしたら?
それって、金輪際、俺は告白を受けられないってことにならないか?
俺から告白するなんてありえない。
絶対に振られるに決まっている。
だとしたら、高崎さんみたいな優しい子に好きになってもらうのを待つしかないのか?
でも、告白されたら《巻き戻し》。
うん。人生詰みました……
俺の人生の目標が、謎の現象により阻まれました……
いや! ここで諦めるわけにはいかないだろ。
人生の目標が、そう簡単に達成できるはずなんてないんだ。
ポジティブに考えよう。
これは誰かが与えてくれた試練なのだと。
練習じゃない。
俺の人生をかけた試練なんだ。
まずは原因を究明しないと。
ひとまず告白されたら《巻き戻し》が起こることは確かだ。
他に何がトリガーになるのかを突き止めたい。
そこへ運よく妹の咲良が目の前を通りかかる。
「なぁ、咲良」
「なぁに、お兄ちゃん」
アイスキャンディをペロペロ舐めながら気怠そうに答える我が妹。
「お兄ちゃんのこと、好きか?」
「……」
ん? 時が止まった?
もしかして『好き』という言葉自体がトリガーだったのか!
……いや、違うらしい。
なぜなら咲良の顔が、みるみるうちに、この世ならざるものを見るかのような憎悪と拒絶の
表情に変わってきているからだ。
俺の手もプルプル震えだす。
「マジでキモイ!」
「いや、違うんだ」
「ちょっとマジ近づかないで!」
「だから————」
「喋らないで! 息しないで! 眠ったまま目を覚まさないで! 悪霊退散南無阿弥陀仏!」
一目散に自分の部屋に逃げ込む咲良。
相変わらず舌っ足らずな話し方だが、妹にそこまで言われると、お兄ちゃん傷つくぞ。
さすがに俺の頼み方も悪かったと思うが。
すると背後から柔らかい感触。
「お互い一人きりの兄妹なんだから、もっと仲良くしないとね~。でもお母さんは~、直くん
のことが、だ~い好きだよ~! ぎゅー!! 直くんパワーチャージ~!」
いくら母さんとはいえ、年頃の息子に向かって恥ずかしげもなく……
でも待てよ?
さっき母さんが「大好き」と言ってくれたけど、何も起こらなかった。
もしかして《巻き戻し》のトリガーは、相手によるってことか?
家族だとトリガーにならない?
もう少し検証が必要なようだ。
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