第9話

 いつものように教室に入り、自分の席に座る。

 そして幽霊娘は堂々と俺の机の上にいる。

 机の右端に腰を下ろし、太ももを通路側に向けている。

 要は正面にある黒板側を向いているのではなく、横向きに座っているということだ。

 贅肉がいっさいない薄いお尻と絶対領域が目の前に展開する。目のやり場に困るぜ。

 てか、贅肉がいっさいないとはいえ、座ったとき特有の、お肉がぷにっと押しつぶされる現象はちゃんと起こっている。

 人間に対しては通り抜けていたと思うが、物に対しては一応干渉ができるということなのか。

 それならば平然と地面を歩いていることにも納得できる。

 しかし、今はそんなことどうでもいい。

 早くそこをどいてほしい。

 でも、このまま堪能するのもありか?


 いやいや、だめだ!


 そんなドギマギしている俺をよそに、前橋さんは教室中をキョロキョロ見渡していた。


「誰も気づいてはくれないみたいね」


 結果なんて最初から分かっていたといわんばかりに、当然のようにポツリとつぶやく。

 俺も少し周りを見てみるが、この教室に3カ月前に死んだはずの前橋さんがいるなんて誰も思いもせず、いつも通り各々の仲良しグループで雑談を繰り広げている。


「当然だけど、まだ私の机があるのね。でも、お花は生けてくれていないわ。ちょっと寂しいわね」

「昨日までは生けてあったよ。49日が過ぎたから片付けたんだ」


 実際に寂しがっているのかは分からないが、さすがに小声でフォローしておく。


「そうなのね。昨日でちょうど49日だったんだ。あなたが生けてくれてたのかしら?」

「いや、安中先生だよ」


 俺は嘘をついた。

 今となっては、どうせバレやしないし、俺がやっていたことを知られるのはなんとなく恥ずかしい。

 そう、ただなんとなくだ。

 なんとなく恥ずかしいし、前橋さんの花を生けていたのは、ともに過ごした時間は短かったけど、このクラスの中で一番前橋さんと仲が良かった気がして、だったら自分がやらないといけないと、なんとなくそう思ったからだ。


「そうなの。じゃあその人に感謝したいわね。気持ちだけになっちゃうかもしれないけれど」


 感謝なんていらない。

 ただなんとなくやっていただけなのだから。

 てか、担任の先生を「その人」呼ばわりですか。

 事情を知らない前橋さんからすると、感謝の対象は安中先生になってしまった。

 けど、別に感謝されたくてやっていたわけでもないし、そのままにしておくことにしよう。

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