第4話

 数日後。


 コツ、コツ、コツ


 久しぶりに聞く、アスファルトの地面をローファーで歩くときの音。

 爽やかな一日の訪れを知らせてくれる小鳥のさえずり。

 少しずつ夏のじめじめ感が弱まり、過ごしやすくなってきている心地よい朝の空気感。

 実際には3カ月程度だが、ボクの中では1年ぶりくらいの懐かしい通学路。


 前に比べれば、気候は過ごしやすくなったかもしれないが、日差しはまだ強い。

 もともと太陽の光は、自分の中の見せたくない部分まで光を照らされてしまう気がして好きではないし、単純に眩しいから苦手だ。


 でも、こうして再び外に出て学校へ向かっている。

 きっかけは、真中さんがうちに来てくれたからじゃない。

 学校へ行かないことへの罪悪感も感じていたし、理由なんてなんでもいいから、学校へ行く行動原理がほしかっただけ。

 実際のところ、今までなぜボクが学校に行きたくなかったのかは、うまく思い出せない。いつの間にか、うやむやになってしまっていた。


 色んな人に絡まれて、変な視線にさらされるのが面倒だったからかもしれない。

 でも、ボクにはいつも傍にいてくれる大切な人がいるから安心だ。

 その大切な人はというと、


「ふふっ。 なに?」


 こうしてボクの隣で、ボクにしか見せない可愛らしい笑顔を見せてくれている。


「なんでもないよ」

「なんか熱い視線を感じたんですけど」

「結葉はいつも傍にいてくれて嬉しいなって思って」

「どうしたの、急に。当たり前じゃん。柊は私の大切な人だもん」

「ありがとう。3カ月ぶりくらいの学校だけど、こうしてあまり緊張してないのも結葉のおかげかも」

「どういたしまして。えっへん」


 照れ隠しのつもりなのか、ちょっと頬を赤らめながら体全体で偉ぶってみせる結葉。

 こういう彼女にいつも救われてきたんだ。

 怖いものなんて何もない。

 

 学校の校門前に到着。

 一度立ち止まって一呼吸。


 大丈夫……。大丈夫……。よし!


 時間は気にせず来たけど、登校時間は本鈴ギリギリになってしまったため、他の生徒の姿はわずか。

 そして、校門をくぐり学校の敷地内に入る。

 でも、今まで隣を歩いていてくれた結葉の姿はない。


 あれ?


 後ろを振り返ってみると、まだ立ち止まっている。


「結葉は行かないの?」

「……うん。なんか面倒くさくなっちゃった。やっぱり私は、柊が帰って来るのを待つことにする」

「そっか……。一緒に来てくれてありがとう。じゃあ行ってくるね」

「うん。行ってらっしゃい」


 少し心細いけど、結葉はサボりのようだ。

 彼女に見送られたまま、3カ月ぶりの自分の教室へと足を運んだ。

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