ホワイトすぎるホワイト領

 目を覚ますとベッドの上。


 俺はホワイト領の兵士に助けられてそのまま意識を失った。


 その後の記憶が無い。


 部屋を出て階段を降りると受付と目が合う。


 俺と同じくらいの年齢。

 髪は長く、金髪に青い瞳。

 少し幼いが異様に整った顔に白いシンプルな制服。

「おはようございます。体調はいかがですか?」

 心配したように顔を覗かせる。


「おかげで、助かった。でも、金が無いんだ。返せる物が無い。」


「お気になさらないでください。まずは椅子に座りましょう。」


 俺と少女はテーブルのある椅子に腰かける。


 俺はガタガタと震えはじめる。ベットから起きて薄着のまま起きた為体が冷える。

 いや、食べていないから、体が冷えるのか。


「今すぐ毛布を取ってきますわ。それと食事の用意をお願いします。」

 少女の言葉で、他の受付の者が食事を取りに行く。


 少女はすぐに毛布を持って戻ってきた。

 俺の肩にやさしく毛布を掛ける。


 湯気の立つスープとパンが運ばれてくる。

 テーブルに置かれると同時に俺はスープを急いで口に入れる。


 舌が熱い!でも、体が暖かくなってくる。

 俺は詰め込むようにパンとスープを平らげた。


 その様子を見て周りの人間が集まってくる。

 少女は食べ終わるまでじっと俺を見つめる。

 食事に夢中な俺に気を使ってくれたんだろう。


 俺が食べ終わり一息ついたタイミングで少女が口を開く。

「自己紹介が遅れました。わたくしの名はリコ・ホワイトですわ。以後お見知りおきを。」

 リコ・ホワイト、この領地の血縁者、家名持ちは貴族の証だ。

 俺やエステルは名前のみで家名を持たない。


「俺の名はハルト。ブラック領を追放されてここに来た。」


「よろしければ、追放されるまでの経緯を教えて欲しいのですわ。」






 俺は今までの経緯を説明した。

 俺の周りには部屋の全員が集まっていた。


 周りにいた中年の男性が泣き出す。

「馬鹿野郎この野郎!目にゴミが入っちまったぜ!」


「ゲンさん、今は話中だから静かに。」

 周りの男が注意するがゲンはずっと涙を流して泣き続けた。


「つらい話をさせてしまいましたわ。しばらくゆっくり休んでください。」


「でも俺は金を持っていない。金を稼いで返したい。」


「いけません!しばらく安静にしませんと!仕事の話は元気になってからですわ!」


「ガキが遠慮してんじゃねー!休みやがれ!」

 ゲンも俺を止めに入る。


 他のみんなも俺を休ませようとする。

 ブラック領ではありえない対応だ。


 親がおらず子供一人なら、普通は、死ぬ・冒険者になる・盗賊になる

 この3択だ。

 運よく冒険者以外の安全な仕事に恵まれる可能性はかなり低い。


 俺の目から自然と涙がこぼれていた。


 リコが立ち上がり俺の背中を撫でる。






 俺は2日間みんなのお世話になり、無事回復した。


 ホワイト領は明らかにブラック領とは雰囲気が違った。


 皆優しく、冒険者がマウントを取ってこない。

 それどころか「頑張れよ!」と優しく声をかけてくる。


 何の見返りもなく俺を助けてくれる。


 リコは貴族なのにみんなと普通に話をしている。

 普通は貴族が来たら距離を取る。

 下手をすればそこら辺の犬のような感覚で平民は殺される。



 そろそろ俺もお返しをしよう。

 黒い制服の横に包丁を装備する。

「リコ、ダンジョンに行ってくる。」


 リコは俺の顔をみつめる。

「まだ治っておりません。明日からがよいですわ。そうだ、この領を案内いたします。」


「借りを早く返したい。」


「いけません!いけませんよ!今日はホワイト領の案内をさせて頂きます。。さあ、行きますわよ。」

 リコが俺の手を取る。


 仕方がない。

 今日は街を見て回ろう。


 建物の外に出ると、大きめの十字路に施設が密集しているのが分かる。


「今出てきたのが総合ギルド、横に総合販売所もありますわ。道の反対側にはダンジョン、学園、学校が並びます。」

 学校は6才から9年間通い、学園は15才から3年間通う。

 この国は学校にも学園にも通えない者が多い。

 通えるのは裕福な者か貴族か、親にコネがある場合だけだ。

 俺は親のおかげで学校に通うことが出来た。

 と言っても退学処分を受けてしまったわけだが。


 俺は改めて周りをぐるっと見渡す。

「うん、大事な施設が密集してて暮らしやすそうだな。」


「その通りですわ。冒険者の方や学校、学園の方も暮らしやすいよう考えられております。」

 リコは眼を輝かせた。

「さらに宿屋、酒場も近くに建てられております。今日は主要施設すべてを案内いたします。」





 俺は一日かけて街を案内された。


 ホワイト領の人口は約3000人。


 街の周りに農場、畜産、釣り場が囲うよう作られ、山、川、森、草原と自然が豊かな場所だ。


 何より町の人の表情が良い。


 孤児院に多くの費用を使っている為領主は貧乏なようだが、町の人間がのびのびと生活できているのが伝わってくる。

 領主は王家の手伝いの為常に王家におり、リコが代理で運営を任されているらしい。

 リコは天才なのかもしれない。


 ホワイト領の主要な利益は学園と学校だが、定員割れが続き、しかも出た利益のほとんどを孤児院の運営費に使っているらしい。

 後は、農業、畜産、魚釣り、魔物狩りや素材採取で細々とやっているようだ。


 俺はベッドに入る。


「早く明日にならないかな。」


 明日から魔物を狩って早く強くなるんだ。


 俺はワクワクしながら眠りに落ちた。



 この後ハルトは覚醒し驚くべき速さで成長していく。

 そしてその力でホワイト領を救っていくことになる。

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