情熱的なクラッカーに拍手喝采を!


【元のチャート】

邪神像と結婚→資産を根刮ぎ奪い取られる→浮気される→糾弾→反省する…等と言われたが思い切り裏切られて私は処刑台へ



 「クリス、どうかしたのかい?」

 タイムリープをしてからの百面相に首を傾げるワルムス。

 「いえ、何でもありませんの。」

 嘘。何でもある。

 (考えますの!元のチャートがアレで詰んだのを反省しなければ。おじーさまの助けを無駄にするなんて許しませんの!)

 彼女は今、一世一代。文字通り一世一代の危機的状況を前に、頭脳の全てを以てその危機を打ち破ろうとしていた。



【チャートver2.0草案】

結婚を断る→この男との関係性を断絶→保険として家の力を奪われないような細工もしておく。



 (このままここで首を縦に振ればあっという間に家を吸収されて私はTHE ENDですの。

 かと言って、下手に優しく断ったら断ったで粘着されて、最悪の手段で『既成事実』とかやりかねねーですの。ver2.0は初手が一番厄介ですの。でも前提として『断る』は最低限行わなければなりませんの。)

 伊達に邪神像相手に結婚して死んでいる訳ではない。

 クリステラの予想通り、目の前の邪神像はアマリリス家の力を手に入れるための第一プランを実行しているだけに過ぎない。

 そう、第一。

 男は複数プランを持っている。

 そして、数字が増える程邪悪さと陰湿さとは増大し、人間性は無くなっていく。

 《僕の容姿と評判を利用して懐柔するというのは一番有効かつ楽な手だ。

 の場合は疑心とか警戒心とか無いから特に楽だ。

 適当に愛想笑いして話を聞くフリをしてやれば終って力が手に入るのだから、僕自身の容姿に感謝しよう。評判を上げるためにやった事を褒め称えよう。》

 第一プランでこの有り様。

 第二に成れば身の危険が発生する。

 (考えますの、クリステラ=アマリリス、素数を数えつつ考えますの。素数は1と自分以外では割り切れない孤独な数、今の私に力を貸してくれますの。)

 粘着されない、しようが無い方法を見付ける。それが課題だ。

 (2『婚約者が既にいるから諦めて欲しい。』絶対ダメですの、3確実にその辺は調べ上げて。5事前に婚約者の不在を確信した上でここに来てこうしている筈ですの7。たとえこの後で婚約者をでっち上げたとしても、11調べられてボロが出るか、13はたまた婚約者役が買収されるか…………17……最悪、19婚約者役が事故死or行方不明になりますの。23それは避けたいですの……。

 では次ですの。29『結婚よりしたい事がある。』と言って結婚を回避する31…………これは結婚の回避ではなく延期にしかなりませんの。37その間に外部への印象操作を行われて外堀を埋められてしまえば盤石になりますの41。時間稼ぎはこちらにとって致命傷にしかなりませんの43。

 印象操作や謀略絡みでは分が悪過ぎますの47。

 この場で53、確実に59、結婚を避けねば61、なりませんの。)

 思考が巡る。クリステラ=アマリリスは目の前の邪神像を見て、攻略する方法を考えていて…思った。

 (……改めて考えてみるとクソ外道も良いところですの。)

 クリステラが被った被害、正確に言えばこの後被る可能性があるありとあらゆる被害を思い出した。

 外面に騙されて結婚したらこちらを召使いの一人か、最悪家にいるダニくらいにしか思わない冷たさ。

 他人の家の財産全てを自分のものと思っていなければ出来ない様な傲慢な態度。

 あちこちに女を作り、遊び、その女達も遊び道具として、そして計略の駒として使う非道。

 それらを断罪せんとした者達…クリステラを含めた数多の人々を始末してきた残虐さ。

 彼女の心には火が点いた。怒りの火が点いてしまった。

 (『結婚を断る』なんてヌルいですの。

 なんで私がこんな邪神像相手にゴキゲン取りなんてしなくちゃいけませんの?

 私の家は食い荒らされて、好き勝手されて、挙句に殺されましたの。

 私は現時点では何もされていませんけど、それでも…それでもですのよ、この男はそれを現段階で画策していたかと思うと、我慢する気になれませんの、一泡吹かせなければ我慢できませんの!

 …………よし、チャートを決めましたの!)

 目の前の男と結婚しない最良の方法を、彼女は迫る死の中で見付けた。



 「あぁ、ワルムス様、その………私、心を決めましたの。」

 顔を赤らめ潤んだ目でもじもじとする様は正に初々しい乙女のそれ。

 恋をした乙女のそれであった。

 「あぁ、クリス、敢えて僕は聞こう。

 僕は君の事を愛している。君の事を僕は受け入れる。その覚悟が僕にはある。

 君と一生一緒だと、僕はここに誓おう!」

 大仰に両手を広げて朗々と話す姿は傍から見れば舞台役者の様にも見える。

 その言葉に嘘偽りは無い。

 《下手に聡い相手は始末する手間が有るし、手を噛んでくる輩も多い。それに比べて僕は君の様な人間は理想的だ。だから、君の様に御しやすい上に力を持った駒を僕は愛している。

 君の力を受け入れる覚悟はあるし、搾り終えるまでは一緒だ。絞れなくなって要らなくなったらちゃんと最後に捨て駒として使い切って捨ててあげるから、僕はこの場で嘘なんて全然吐いていない。

 嗚呼、僕は胸を張って生きていける。他人に対してここまで誠意を示し、嘘偽り無く、正直に、堂々と、生きている僕を、僕は万雷の喝采で迎えよう。

 さぁ、これから僕の更に素晴らしい輝ける未来が始まるんだ!》

 「私、クリステラ=アマリリスの矜持は情熱的に生きる事。

 嘘偽りの微塵も無い、自分の気持ちそのもので人には向かいます。



 そう、あなたと違って……」

 一瞬、両手を広げたワルムスの体は強張りそうになり、そして何事も無かったかの様に元の状態に戻した。

 反射さえ一瞬で隠蔽する邪神。しかし、頭が回って隠蔽が出来てしまったが故の、その一瞬のインターバルが仇となった。

 「私は人を自分の駒としか思っていない舐め腐れ外道男とヴァージンロード歩くなんて御免被りますの。

 自分の容姿と外面に自信持つのは勝手ですけど、それだけで人をどうこうできるだなんて自惚れるんじゃねぇですの!

見てくれのいいクズは普通に『クズ』の一言で片付きますの!」

 (右足を踏み込み、腰と膝を落として姿勢を低く、左の拳骨を固めて……全身のバネと回転を拳に全て集約させて振り上げる!)

 母親から教わった。一子相伝、秘伝の『男を手玉に取る1021のテクニック』を応用した奥義。

 「『対男性撃滅突上拳ナッツクラッシュ』ですの。

 オラァ!その腐った二つのナッツ、砕けやがれですの!」

 掛け声と共に全身の筋力を込めた下からの突き上げは、両手を広げて隙だらけになったワルムスの胴体ド真ん中真下から抉る様に、要は股の下にものの見事に入った。

 決まった。

 「ォゴッ……ェゥェ……、」

 《え……ぐ…………》





【チャートver2.0】

金的で男を仕留めて結婚の話ごと関係を断絶する→〇〇〇〇〇〇→……

チャートは動き出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る