82 マスク

 こんにちは。


 SNSで、満員電車でもマスクをしていない人を見ると、それ自体よりも した方が良いとみんなが思っているのが分かっているのしない心の狂気が怖い、というつぶやきがあって。

 それに対する、賛成も批判も色々あって。


 私もその「怖い」発言自体には納得する。私も同じ経験が数回あるから。

 前提として、何らかの健康・身体的状況でマスクが出来ない人がいる事は理解している。だからマスクをしていないだけの人には「肩身狭そうで大変だろうなぁ……」と思う程度なんだけど、明らかに挙動がおかしい人がいるのも事実で。


 まず、フェイスシールドだけのおじさんが満員電車で、咳をしまくっていた。別件で芸能人がロケなどでよく使っている口の前だけに装備する透明なシールド。それの時も咳をしていたんだよなぁ……。あとは、マスクを顎にずらした状態で、車内でずっとスマホで通話をしている人。

 どれも周りの人たちは触らぬ神に祟りなしという事なのか、何も注意しなかった。

 

 確かに「もしかしたら健康的理由でマスクをつけられない方なのかもしれない」という考えがあって、何も言わないという人もいただろう。

 でも大多数は怖いからだ。キレたら何をする人なのか分からないから。

 マスクをしていないその人が、どんな人かは知らない。もちろんまともな人で至極全うな理由があるのかもしれない。でもそれを知らないから、周りの人が恐ろしいと思う気持ちは変わらない。

 同調圧力反対と言われようが(同調圧力自体には私も無い方が良いと思います)分からないものを怖がる気持ちはどうしようもない。


 これは無敵の人たちが影をチラつかせているからだと思う。

 人は正体が分からないものに恐怖を感じる。幽霊の正体見たり枯れ尾花で、なぜそうなっているのかが分かれば、なーんだ、なんだけど分からない間は恐れてしまう事を責めても仕方がないというか。


 フェイスシールド咳おじさんも「お医者さんに健康的理由でマスクを止められていて、たまたま唾を飲み込むのに失敗して咽ている」という状態だったのかもしれない。顎マスクで電話の人も、お茶か何かを飲んだあとで戻すのを忘れてしまっていただけかもしれない。(車内で長電話は申し開きできないけれど)

 もしそれがあの時分かっていたら、あの満員電車のピリついた空気は無かったと思う。……と言っても、おじさんがわざわざそれを言うのもおかしな話だし、自分の体の事なんて言う必要が無い。自由だ。


 確かに責める人がいる事を気持ちよく思わない人もいるだろうけれど、怖がる気持ちも仕方がない。

 感じた恐怖を沈める為の材料が提供されていないのだから。

 あとで落ち着いたら何かしら理由があったのかもしれない、と思う事でも、何が引き金になってしまうかわからない状況下ではそれどころじゃない。

 

 ……その事自体が、健康な社会じゃなくなってしまっているだなぁと思う。

 執拗なあおり運転とか、マスクを注意されただけで殴り掛かるとか、直接的な恨みの相手ではない施設で焼身自殺をしたり……みんな理解しがたいもの。

 こういうほんの一部の理解しがたい身勝手で理不尽な行動を取る人が目立ってしまうだけで、イレギュラーを発見した時、心がざわついてしまっている気がする。

 

 恐怖を感じる事も無く、好意的な想像で思いやる選択肢しかない……そんな世の中で無い事が悪いんだよなぁって。

 本当に難しいなぁ……お互いの言い分がかみ合わないのだから。どちらも悪気が無いのかもしれない。お互いがお互いの事を見れていないから溝ができる。「攻撃された」だけじゃなく違う部分も考えてみないと全体像は見えないし、被害者感情ばかりが膨れ上がる。


 こういうことが……世界で起こっているのだろうなぁ。いや、今回の事じゃなく今まで歴史が。



 ……せめて咳おじさんは、咳をする時はハンカチなどで口元を覆って欲しかったなぁ。そうしたら、この人は周りが見えている人なんだなぁって思えたから。ハンカチが無ければ、小さな声で「失礼しました」と周りの人にだけでも言うとか……

 この辺りも難しい問題だけれど、奇異の目で見られない配慮も場合によってはいるよなぁと思ってしまう。

 

 総じて世知辛い世の中ですね。人は捨てたもんじゃないとも思ってはいますが。

 

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