第15話 疑惑と帰郷と

「着いたよ。ここが、メイデン村……メイデン村だよね?」


 電気が全身に走る感覚は瞬きもしないうちに終わった。ライカの手をとった紅雄とミントの体は『疾風迅雷グローム・アクーラ』の力により加速し、一瞬でメイデン村へと運ばれた。


 ただ……、


「うぉおええええ!」

「……ぁ……ん」


 襲い掛かる強烈な気持ち悪さに、紅雄はたまらず嘔吐し、ミントも気持ち悪そうにフラフラとさまよう。


「おいおい、大丈夫か? まぁ、初めてじゃ仕方ないよね」


 ポンポンとライカが紅雄の背中を叩く。


「う……きっつ……もう二度とやりたくない……」

「そう? 私は三歳からずっと練習してるからもう慣れたけど」


 気持ち悪さをこらえて周囲を見渡す紅雄。

 メイデン村だ。

 古臭い木でできた小屋が並び、奥には大きな集会場がある。本当に瞬きもしないうちにメイデン村へとたどり着いていた。

 これが、『疾風迅雷グローム・アクーラ』を持つ雷光姫ライトニングプリンセス、ライカ・Gギャレック・ストレリチア。守護十傑聖騎士ガーディアンパラディンの能力。そして、この力を『異能騎士団アルタクルセイダーズ』の、二年一組の連中は上回っているというのか。


「何だ何だ?」「おい、あれ、ミントじゃないの?」「ベニオと、あの真っ黄色のドレスのねぇちゃんは誰だい?」


 畑から女衆が何事かと村の中心へ集まってくる。

 そして、村の入口方向からいくつも足音が聞こえてくる。


「お、ミント⁉」「あいつら、どうして帰ってきてるんだ⁉」


 槍を持った男衆がやってきた。丁度訓練を終えて帰ってきている所なのだろう。

 男衆をかき分けて、ビオ村長がライカの元へとやってくる。


「お初にお目にかかります。私はこのメイデン村の村長、ビオ・ライトと申すものですが、失礼ですが、あなたはどなた様ですか?」

「ああ、良かった。ちゃんとメイデン村に着いた。こちらこそ突然の訪問をお許しください。私の名前はライカ・Gギャレック・ストレリチア。王都からこのメイデン村に任務で来ました」

「ライカ・Gギャレック・ストレリチア⁉ 雷光姫ライトニングプリンセス様⁉」


 村中が驚愕に包まれる。


「どうして、そんな方が⁉」「もしかして……⁉」


 そして、ライカに集まる期待を込めた視線。

 ライカは苦笑し、まだ体調が優れない紅雄の体をさする。。


「そのやり取り、さっきこの子とやった。この、この……君名前何だっけ? 忘れちゃった」

「忘れるも何も、まだ名乗ってねぇよ……」

「そうだっけ、まいっか。それよりも、皆さん、ゴブリンは倒しますが。それよりも私はもっと重要な任務を帯びてここに来ています!」

「ゴブリンより重要な任務、っていうと……?」


 村人たちは全く心当たりがないようで、顔を見合わせて首を傾げる。

 そんな村人たちを見まわし、ライカは高らかに宣言した。


「ここに、『異能騎士団アルタクルセイダーズ』の一人である姫田紅雄がいるという情報を聞きつけました。彼を差し出しなさい! 姫田紅雄は非常に危険な人物です。彼の能力はいずれこの国滅びをもたらします。その前に抹殺しなければ! さぁ、隠していても何の特にもなりませんよ。ゴブリンの軍勢を倒してほしければ、姫田紅雄を差し出しなさい!」

「……えっと」


 村人の困惑はさらに増した。皆、言うべきか言わないべきか、迷い、ライカから視線を逸らす。


「どうです! 早く姫田紅雄を差し出しなさい! 私に反抗しても困るのはそっちですよ!」

「あの……」


 おずおずとビオ村長が前に出る。


「何ですか? 村長さん、姫田紅雄を差し出す気になりましたか?」

「あの、ベニオはもうここにおります」

「何っ⁉ どこに⁉ 一体どの人が姫田紅雄なのですか⁉」


 取り巻いている村人の顔を注意深く見渡すライカ。その手は紅雄の背に乗せられていた。


「そこの、あなたが背をさすっている男が紅雄です」

「……はい?」

「ど、どうも」


 ようやく気持ち悪さから解放された紅雄がたははと笑いながら手を挙げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る