48話

「なら、本気で殺しに行っても構わないよな」

「また! 黒魔法ッ!?」

「ただの黒魔法の重ねかけだ。怖いか?」


 試しではあったが黒魔法を発動出来た。

 とはいえ、これでも付け焼き刃になりそうだ。現に黒小破を左の得物で容易に止められてしまった。即座に足払いをしてどうにか下がる隙は作れたが、今の一撃でも微不利を取られるのなら二度目は無い。命の取り合いの中での微不利は完敗に繋がる一手だからな。


 ただ、発動出来た事は俺にとって利になる。

 何回かけられる、何回撃ち込める、どれだけやれば自我を失ってしまう……俺が俺としていられるのかなんて予測は出来ない。だからこそ、最上位にいる二人の騎士の力を借りて試すんだ。俺が俺としていられるように、暴走した時に力を操れるように耐えなければいけない。


「少し、力を貸せや」

「何を言って」

「ああ……まぁ、気にすんな。無駄だった」


 いいや、反応自体はしているのか。

 俺を喰らおうとして、出来ずに戻って行ったようにも感じる。門にでも阻まれたか、それとも発動させるためには足りない何かがあったか……どうでもいい話だ。俺の本当の力とか、中に何があるかで進もうとする道が変わる訳ではない。


「守護付与」

「それだけなら!」

「加速強化……目指すは一点突破」


 躱した、は無理だ。ならば、外された、だな。

 ステータスの強化を全て外して速度という一点に変化させた。だから、速度だけなら目の前の化け物と対等、いや、上を行っている自負がある。それでも今の一撃は上手く当たらなかった。それも間違っているか……硬い何かに弾かれた感覚だ。


 鎧に当たっていたのなら破損させているだろう。

 だって、槍に付与させたのは守護の力本体だ。二刀のタルワールの連撃でも破壊出来なかった守護だからな。それを槍全体に付与させた時点で破壊なんて出来る訳もない。壊れない刃で鎧が傷付かないなんて有り得ないだろ。


「なるほどね、貴方がイリアスに力を」

「違うぞ。何となくで使っただけだ」

「……本当に化け物ッ!」


 いいや、それだけ戦闘で必要なのは勘なだけだ。

 生き残るための嗅覚、道筋を立てられる勝利へのタクト、その先を理解出来るだけの判断能力、並べれば無数に出てくる才能を、一瞬でイメージとして成り立たせる事によって勝利が得られる。勝つか負けるかの終わりのある分かりやすいものだからな。


 だからこそ、出来るだけの楽しみ方をする。

 目の前の敵は俺を舐め過ぎているからな。その鬼みたいな顔面を泣き顔にしてやらないと気が済まない。何が相手にとって効くのかはペラペラと喋ってくれたからな。本当にお喋りが相手だと楽でいい。


「サーティーン……Shall we dance?」

「はっ! 一人で踊りなさいよッ!」

「やっぱり、君は特別みたいだな!」


 どうして、綺麗な発音を聞いて踊ると分かった。

 ようやく察したみたいだが遅いんだよ。今ので明確に目の前にいる存在が普通では無い事が分かったんだからな。異世界人、転生者、もしくは関わりのあった人か……いいや、微かな違和感だったとはいえ、よくもまぁ、その考えに行き着けたものだな。


「影結ッ!」

「影魔法の使い手を相手に!」

「かかったな! 馬鹿がよッ!」


 影結単体であれば相手を絡めるだけの影だ。

 だが、その中に少しだけ多く魔力を流し込む事で影打の力も込める事が出来ている。いいや、二人のおかげで出来るようにした、が正しいか。阿呆みたいに重ねがけしているんだからな。……ようやく響き始めた痛みすらも今の俺には愛おしく思えてしまう。


「特別な君に問いを行おう。───君は何者だ」

「そんなもの……分かっていたら苦労なんてしなかったかなぁ。分かっていて聞くなんて本当に性格が悪いと思うよ。私が無いから私、悪の道を享受したから今の私がいるの」

「殺した、の間違いだろ。ましてや」


 おお、分かりやすく目元を歪めるじゃないか。

 アレだけヒントを出しておいて察していない方がおかしいだろ。女ってのは察して欲しい、共感して欲しいって生き物だからな。てっきり、殺し切れていない女としての自分が叫んでいたものかと思っていたぞ。それに全てが甘いんだよ。


「お前は自分を悪だと自認しているようだが、それでは弱いな。悪は悪らしく生きるべきだろう。正義のような誰もが好む生易しい言葉に比べれば、深淵に近い悪程に人がいるべき場所はないからな」

「なぁに……じゃあ、正義は無いの?」

「人が生きていくためには多くの命を消費する。人を殺すなと言うのであれば、人から助けを借りている時点で殺しているのと何ら変わりない。対して助けを求めなければ人は人として生きられやしないからな。故に人というのは悪でしかない」


 どれだけ生きた、苦しんだ……無意味だ。

 そんな事で価値が決まるのなら俺は何だって問いたくなってしまう。生きていていいのかすらも分からない燃え尽きるべき魂が、未だに生きたいと願うから戦うと決めたんだ。こんな俺を、堕ちて這い上がれなくなった俺を抱えようとする同胞がいるから得物に手を伸ばせる。


「この世界程に悪が笑える世界は無いからな。正義のような狂った言葉にそぐわない俺の心を出すには良い世界だ。ああ……すまない、少し口が達者になったな」

「いいよー……でも、最後に聞かせて。なら、その心は何なの」

「答えを言う前に君が本心を口にするべきだろ」

「あっはァ……! 確かにそうだねぇ!」


 何度も考えて振り払った最後の願い。

 もしも、本当の俺を受け入れてくれる人がいるのならどこにいるのかなって……ラブソングのように運命が俺のもとへと手繰り寄せてくれると本気で信じたかったんだ。だって、本物の愛を捧げてくれていた人を俺は裏切ってしまった。


「ほら! 本心を話せよ!」

「教えてあーげない! 無理やり聞き出してみなよ!」

「なら! 殺して聞いてやるよ!」

「無理だよぉッ! 反発ッ!」


 でも、今度こそ、その愛を否定したくはない。

 弾き返された影すらも目の前の女性を引き立てる最高のアクセントとなるだろう。同じ轍を踏むなんて俺らしく無いだろ。踏む時は……ワザとやってあげないとな。こうやって愛を、愛で返してくれたんだ。それを受け止めないだなんて男として勿体無い限りだろ。


「やっぱり! 壊せないかァッ!」

「当たり前だろ! 本来の力を行使していない状態で俺に勝てると思うなよ!」

「でも! 今の状況なら私の方が有利だからッ!」


 そうだな……このまま行けばタイムオーバーだ。

 だから、今だって次の一手の準備をしている。本音を言ってしまえば噛み付けている今の状況の方がおかしいんだ。二人の助け、俺の持つ力……それ以外にも目の前の存在が力の暴走を抑えているのも大きい。口では何だと言ってはいるが殺す事だけが娯楽なのでは無いのだろう。


「チッ……やっぱり、脆いなァッ!」

「当たり前でしょ! 逆にどうして付与でそこまで持つのよ! 普通は付与した時点で壊れているっての!」

「その程度を出来ない男がどうしてエルやリリーやイリアスやマールを配下に出来ると思っているんだよ! 足りねぇんだ! これで皆と一緒に歩くなんて出来はしないッ!」


 手を抜いてくれている今なら速度負けは無い。

 でも、ここまでやって遊びで戦うエルやリリーと同格なんだ。やっぱり、地力がイリアスやマールに大きく離されている時点で……本来の能力の一割も行使出来ていないんだろうな。それでも二人のおかげで間違いなく戦いを楽しめているんだ。


 壊れた槍を入れ替えてすぐに付与を行う。

 もう少し、そう、もう少しで準備が整うんだ。今はただ呼吸を乱すな……勝つためのビジョンを視界に描くだけ。それまでは守護と幻影化で耐え抜くだけだ。後五秒……四、三、二、一……───






「いきなり立ち止まってどうしたのッ!」

「準備が整ったんだよ!」

「何、を……!?」

「真法・繕」


 周囲の影を奪い、俺の影を同化させてやる。

 ただの綺麗な漆黒の円球、それを三つに割かせて俺と似た姿形へと変化させた。ハッキリ言って初めてやってみたが成功したようで良かったよ。黒魔法と他にも幾つかのスキルとかを重ね合わせたオリジナルだからな。ただ、その効果は絶大で、三体の影のどれもに今の俺と同等の力が備わっている。


「さぁ! 本気で殺し合おうか!」

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