第84話 親父との決闘〜これだけ卑怯しといて負けるとか、アホだろ?~

「賢者様よりプランA作戦の命あり、直ちに賢者様の魔力強化せよ。直ちに賢者様の魔力強化せよ。繰り返す、これは演習ではない。直ちに賢者様の魔力強化せよ」


あー聞こえてるんだよな。俺のLv200のスキル探知のおかげで……。


闘技場は中から外へは魔力がいかないようになっているが、逆は可能だ。


これは魔力回路の都合らしい。逆止魔力回路というものだそうで、一方通行の壁なんだ。


一方通行にすることで魔力障壁をより強力にできるらしい。


「俺はあんたの爆裂魔法を符術で超えてやろう。死んでも恨むなよ」


「まったく、真の強者がわからんと見える」


まあ、そうだな。親父は確かに強い。確かにな。それは確かなことだ。


その上ドーピングチートまですれば勝利を確信するのは理解できる。


だが、進化の止まった者を抜き去るのは容易い。


俺は父の魔法、爆裂魔法の手本を見せてやることにした。


いつきの館で読んだ古代書によって手に入れた知識。何故複数の属性魔法が使えると有利なのか? 単に弱点属性がなくなるというだけではない。


組み合わせることで魔法は何倍も、時には何十倍も威力が上がる。


魔力0の俺には不可能だが、スキルの属性に生活魔法の違う属性を加えるだけで爆発的な威力の増大が見込める。


魔力のない俺が知っていることは全く笑える話だが、教えてやりたい衝動にかられる。


いや、父に身をもって知ってもらおう。父の爆裂魔法は彼が考えたんじゃない。


魔法学園の教科書に何百年も前から載っているものだ。


ただ、使える者が数十年に一人しか現れないというだけのこと。


真の爆裂魔法の在り方を。それを父に教えてやろう。スキルに恵まれなかったからこそ考えることができる境地。ユングスリング家の領地の才能に恵まれない冒険者のみなもそうだった。


だから、親父にわからせる必要がある。自分たちがどれだけ怠惰だったのかを。


「ノア・ユングリングが問う、彼はなんぞ?」


『我は炎、汝の敵を打ち砕く燃え盛る炎。汝の敵を打ち砕く刃なり』


『我は水 命の根源たる清き水。汝の身と心を癒す者なり』


『我は土、堅牢にてあらゆる物質の頂点。汝の敵の攻撃を防ぐ者なり』


俺の特性の3属性符術、それに対して2属性の上、支援魔法でドーピングした父の爆裂魔法。


俺には魔法は使えないが符術なら使える。


だが、俺は魔法の課題の多くを解き明かした。父の火と水の魔法。父は爆裂魔法以外に複合魔法を使うことができない。いや、研究してないから知らないだけだ。


だが、俺は2属性どころか3属性の符術を考案していた。攻撃手段として、エネルギーをもつ火の魔素に水魔法を付与した上に土の爆発性の高い成分を供給した。これで、水と火で水素を作る、そして水素を僅かな火の力で爆発させた上に土から供給された化学物質が反応すると、その威力は?


爆裂 エクスプロージョン


父の魔法が先に完成し、光球が俺に向かって放たれる。


それを迎撃する俺の符術。


「どうだ落ちこぼれ!! お前には防御だけで精一杯だろう!」


「いや……これくらい……たいしたことないが?」


俺は符術を使う際、言語を使用していなかった。


符術の符術言語、当然ある。


既に俺の目の前の宙にはスペルが何度も浮かんでいる。


「それがお前の全力なのか? 遠慮なく打ち込んでいいぞ?」


「は?」


いくらなんでも父の真の爆裂魔法とは思えなかった。


「ふっ……まだはったりをかます余裕があるか。そこまで言うなら、本気でやろう!」


父は呪文詠唱に入った。


それまでより大きな魔力が俺の探知のスキルに反応する。


ようやく本気を出したか、ならばこっちも。


『我が符は無敵なり、我が符に敵うものなし。我が一撃は必殺なり!』


爆裂 エクスプロージョン


父の呪文が先に完成する、だが。


「ノア・ユングリングが問う、彼はなんぞ?」


俺の符術の光球は真っすぐ親父の光球を迎撃……する筈だった。


あれ?


なんか、親父の魔法を吸収したような?


迎撃のため、やや上方に打ち出された魔法は親父を吹っ飛ばして、見当ハズレの近くの山に着弾する。魔法障壁をぶち破って……。


「あ……」


「……シーン」


突然、観客たちが静まり変える。何故なら。


父は例のごとく、空高く、クルクル空を飛んでいる。


そして、地響きを上げて、一つの山が大爆発を起こしていた。いや、俺の魔法があたったのだ。


火山のように大爆発を起こし、黒煙を吐きだし、山の三分目あたりが空に飛んでいる。


観客たちは遠く見える大爆発を起こして飛んでいる山を見て、あれだけ熱烈な応援をしていたにも関わらず、シンと静まり返った。そして――気が付き始める。


「お……おい、なんか今、魔法で山一つ吹き飛ばしてなかったか?」


「もしかしてあの賢者って、めちゃくちゃ弱いんじゃねえ?」


「い、いや。俺には相手のハズレスキル、ノアがでたらめに強すぎるだけに思える」


「マ……マジかお前、本気で言ってんのかよ……相手は賢者だぞ?」


そして、父が空をクルクルと周りながら、ドスンと落ちる。


父は後ろの山が落ちて来て、山が天地逆さになっているのを見て、半泣きだった。


だが、勘違いをしてもらっては困る。


「勘違いするな。今のは魔法の当たり所が良かっただけだ」


「「「「「「「「「「「「「どんな当たり所だよ」」」」」」」」」」」」」


何故か見物客数万人に突っ込まれる。


「「「「「「「「「「「「「ほんとに天地を逆さにするな!!」」」」」」」」」」


更に追い打ち。

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