俺は空気が読める~魔力0の無能だと馬鹿にされてダンジョンに追放された俺、実は災害級のスキルがぶっ壊れていて世界最強にして唯一の剣士になる。あれ? 気がついたら実家が没落していた~
第64話 ユングスリング家の受難3 ~じゃまな執事長とノアを追放できたと笑っていたら辺境領債権が暴落した上家臣がみんなノアの元に出奔してしまった件~
第64話 ユングスリング家の受難3 ~じゃまな執事長とノアを追放できたと笑っていたら辺境領債権が暴落した上家臣がみんなノアの元に出奔してしまった件~
「キィィエエエエェェェェェェェエエエエエーーーー---ッ!!!!」
書斎で奇声を発してしまったのはユングリング家の家長レオだった。
「へ、辺境領の債権が暴落? そんな馬鹿な! 我が領の格付けはSSSだぞ!」
「恐れながらエーリヒ様が出奔されて、どうも財政のやりくりがうまくいかず先日の償還日に支払い不能になった模様でして……」
「一体、領の官吏は何をしておったのだ!」
官吏は一瞬半笑いになると。
「先ほど黒耳猫の宅配便で辺境領全員分の辞表が届きました」
「な、何だと! ええい! 奴らは恩を仇で返したと言うのか?」
やはり目の前の官吏の表情が歪んだ笑みに変わる。
恩?
薄給でこき使って、そのくせ王都で浪費生活を送る主人に恩を感じる者がいるか?
彼らが恩を感じていたのは執事長エーリヒとノア様にだけだ。
俺達と同じように。
「恩とは何のことかは存じ上げませんが、これを同僚達から預かって来ました」
官吏は封筒の束を差し出す。
「な、何だこれは?」
「王都の屋敷で働く者全員の辞表です」
プルプルと辞表の束を見て震えるレオ。
それをこの官吏は追い討ちをかける。
「それとこれは私の分です。退職金は既に頂いておきました。他の者も全部」
そう言ってニッコリ微笑んだ。
「キィィエエエエェェェェェェェエエエエエーーーー---ッ!!!!」
ユングリング家に家長レオの奇声がこだました。
星
「それとできれば、この領の行政府で雇ってもらいたい人材がいるのですが……」
なんと、俺を頼って来たのはエーリヒとベルンハルトだけじゃなかった。
税務官、都市整備部、産業復興部の責任者。ほとんど、ユングリング領の行政府全員だ。
それは、確かにちょうど良い。辺境伯アーサーを見るとコクリと頷いた。
「確かにちょうどいい場所だね。整備したくても人出不足で頓挫していた場所でね」
温泉地に宿屋や休憩所を作り、観光客や湯治客を呼ぶ。道路の整備、宣伝……などなど、開拓にはいくらでも人員が必要となる。
「では。都市整備部アドラーに開発を任せて、財務面を税務官ディッキーが見れば良いですかな」
「ちょうどいい。この街の近場には観光地が必要だと思っていたが、人材面で難しそうだったから、助かるな」
「坊ちゃま、それだけではないでしょう。ざっと調べましたが、この領地は治水灌漑が良く整備されていますが、産業の復興がまだのようで、坊ちゃまは開発するおつもりでしょう?」
やっぱり、バレているか。彼は俺の領地経営の師匠なので、当然だが、先回りしてこの領地の情報はチェック済らしい。
「おお、若い頃の血がたぎる。この領地は可能性にあふれている。魔物は多いものの、土地は肥沃、農作物の出来高は高い。それに手つかずの港や道路、橋の開発もまだ」
「ちょっと待ってね。そんな急に開発する資金はないね。恥ずかしいが、この領は領民を食わすのがやっとで、王都への税の支払いと灌漑治水の整備でだいたい領の金庫は空になるね」
歳出を気にしているんだろう。それはそうだろう、だが俺達は金融ギルドの知り合いがいる。
「臨時予算編成は私めにお任せてください。金融ギルドにコネがありまして、辺境領債を発行しようかと思います。この領は食料自給率が高いし、信頼度も高いから低い利率で発行できます」
「辺境領債? 大丈夫なのかな。借金なんだよね? 領民が困ることは許可できないよ」
アーサー辺境領伯の言うことももっともだ。俺達はユングリング領で慣れているが、発行したことがない辺境伯には不安だろう。
「では、先ず温泉街への道路を作るための辺境領債を1000万ディナール位を発行して様子を見てはどうですか?」
「それ位なら、財政を圧迫することもないね。わかった。君たちの領地経営の手腕を信じる」
今後の方針をおおまかに確認して、近況を聞く。俺を心配して来てくれたことはわかるが、それにしてもずいぶん思い切った移住だ。あまりにも思い切りが良すぎる。
「実は坊ちゃまがユングリング家を追放されることは以前からわかっておりました」
エーリヒは突然決めたわけではなく、1年ほど前から計画していたことだという。
「本当はつての男爵家へ養子として出してもらう予定だったのですが……」
予定が狂い、突然実家を追放されたので、後手に回ってしまったわけか。
そこまで俺のことを考えてくれていたなんて……家族よりずっと。
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