俺は空気が読める~魔力0の無能だと馬鹿にされてダンジョンに追放された俺、実は災害級のスキルがぶっ壊れていて世界最強にして唯一の剣士になる。あれ? 気がついたら実家が没落していた~

島風

第1話 追放

「魔力0のお前を追放する!」


「ち、父上、いくらなんでもあんまりです!」


家中に響く声。


1年ぶりに実家に帰り、能力の鑑定式が終わった途端に追放を言い渡された。




俺は魔法が全てと言っても過言ではないこの国の伯爵家の三男として生を受けた。


だが、俺には魔力がなかった。


それも0。


誰でも多少なりとも魔力はあるものだ。


それが魔法の名門、ユングスリスク家に生まれたにも関わらず、魔力0。


当然子供の頃から馬鹿にされ、いないものとして扱われて来た。


俺は家での生活に耐えきれず、16歳までの大半を辺境領で過ごした。


そして16歳の誕生日。


全ての人は女神様から能力を贈られる。


俺に授かった能力は……


「ノア様に授かった能力は『空気が読める』です。希少度は最高ランクです」


魔術師協会から派遣された鑑定の能力を持った職員は驚いたような声で告げる。


空気が読める?


聞いたことが無い能力だ。


もちろん、魔法と関係がありそうにも無い。


「ギャハハハハ! 魔力が0なだけでもすげぇのに、何だその能力? お前、お笑いの能力を授かったんじゃねえの?」


「ヒヒヒヒヒヒ、テオ様の言う通りざます。無能の出来損ないに相応しいざます!」


家族は馬鹿にするが鑑定家の魔法協会の職員は慎重に言葉を続ける。


「レオ伯爵様。ノア様の能力は希少性が最大級です。魔術協会でお調べさせてください」


鑑定した職員はこの聞いたことの無い能力に慎重な態度を示す。


当然だ。


能力は人の一生を左右しかねないモノだ。


優秀な能力を授かれば、それだけで一生が安泰なのだ。


だが、俺の家族には慎重さのかけらも無かった。


「鑑定家殿、無用だ。ええい、忌々しい。魔法に無縁なことには変わりがないではないか! このユングスリング家より魔力0の上、よりにもよってハズレ能力者が出るとはな!」


怒り狂う父親。


「まったく、どこまで我が家を貶める気だ? この面汚しめが!」


「そうざます。魔力が無いだけでも無能なのに、更に役立たずなことが確定したざます!」


怒り狂う父親に俺を嘲笑する兄二人。


父も兄二人も性格は悪い。


だが、父は賢者の才能を授かったこの国一の魔法の実力者。


兄達も優れた魔法の才能を授かり、才能に溢れ、未来の国の礎と言われる。


俺には何も言い返すことが出来なかった。


そして、冒頭の通り、俺はこの伯爵家を追放されることが決まった。


☆☆☆


俺は自室に戻り、身辺整理を始めた。


多少の物を持ち出すことは許された。


俺はこの日が来ることを予想して多少蓄えがあった。


伯爵家を追放されることは想像出来た。


苛烈で魔法にしか興味の無い父。


父が俺に興味が無いだけだけでなく疎んじていることもわかっていた。


「……今日中に出ていけか」


疎まれていることはわかってはいたが、流石に今日の今日に出ていけと言われたことには心が傷ついた。


子供の頃から可愛がってもらったことは無い。


魔力が溢れる兄達と違って魔力0の俺に父は一度も興味を持ったことは無い。


でも実の父なのだ。


多少感じるものもある。


その時、俺の部屋のドアをノックする音が聞こえた。


「ノア様? 大丈夫ですか?」


「リリーか? 入ってよ」


俺付きのメイドのリリー。


彼女はこの実家で唯一の味方だ。


俺のことを子供の頃から心配して、気持ちをわかってくれた。


「ノア様……その、お察しします」


「ああ、俺、能力もハズレで、この家を追放されることになったよ。今までお世話になった。ありがとう。心の底からお礼を言うよ」


俺はリリーに向かって頭を下げた。


リリーがいなかったらとっくに心が折れていた。


辺境にもいつもついて来てくれて、俺にとっては天使のような存在だ。


「ノア様止めてください。私はノア様の僕なのです。ノア様はご主人様なのです」


「ありがとう。リリー。君だけだよ、そんなこと言ってくれるのは」


「そんなことはありません。この家の使用人も皆ノア様の心配をしています」


「ありがとう。みんないい人達ばかりだもんな」


俺はリリーの言葉に涙が出そうになった。


リリーは俺の心の支え、いや、俺はリリーが好きだった。


貴族だから自分の心を伝えたりは出来なかったけど……


明日から俺はもう貴族じゃない。


「ノア様。私もノア様について行きます!」


「リ、リリー!」


俺は心の底から嬉しかった。


これからリリーと二人で生きていく。


とてもいい人生のような気がする。


少なくてもこの家にいるよりは。


そう思い、俺の心は踊り、明るい未来を夢見始めた。


あの、兄の声を聞くまでは。

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