第33話 禁忌の地、レギア跡地
ゆらゆら動いている何かは赤い瞳を光らせている人型がおれを見ている。
「お前は誰だ」
前に見た時はぼやけていたが、今は少し輪郭がハッキリと見えていた、腕に当たる部位がない代わりに何かが蠢いている。足に当たる部分はやはりわからない。
「どうして俺の前に現れる」
「戻せ――」
アナログテレビの砂嵐だ、ザァザァとした雑音に確かに聞こえる奴の声。
「還せよ――咎人」
ゆらゆら動いていたのとは一転、顔をこちらに伸ばしてくる。
「――ッ」
襲い掛かる奴に剣で応戦する――
「ぉ」
頭を切り落とす、しかし切った心地がしない浮いている紙を叩いたような。
胴体から切り離された頭部からはドクドクと赤い黒いドロドロした液体が零れだす、奴の口からはごぼごぼと嫌な音を出している。
「なんだったんだこいつは――ッ!?」
奴の腕に当たる部分から出ていたのがわかった。手だ、黒い手が無数に俺を掴んでいる。
「ひっ!」
手に持った剣でどうにか黒い腕を切り裂いていく。
「くそッお前――」
頭部を切断しただけじゃ死なないんだ、徹底的に破壊しつくさなければならない。
胴体を切り裂いていく、粉微塵にして蘇らないようにしないといけない。
そうした方が良い。
そうやっていたら自らの身体は返り血で薄汚れているのに気が付いた、目のまえで倒れているそれはもう何だったのかわからない、ただ隠さないといけない、死体を放置するのは不味いだろう。
埋める埋める。
「......これで......良い――?」
『それで良いんだよ』
◆◇◆◇
「――うぁ」
なんで俺はあんなこと!?
思わず身体を見る、返り血なんてない、だけどあの生暖かい感触は現実味があって不気味だった、剣は折れていて使えない。
「こ、ここは!?」
森?だろうか、しかし何か天気が変だ、夕焼けと言うには赤っぽいというか。
辺りもなんか赤っぽい霧がかかっている。
「どこだ、たしか......」
確かへベルナとパレハと依頼を受けて。
「――思い出した、あいつの『ミュケナイ・ガーディア』を喰らって吹っ飛ばされたんだ......」
ただその後は思い出せない、何があったんだ?
「......ぅお、起きたんか」
濃い緑髪に眼鏡、確かシメトと言ったか。
どこからか木の実を持ってきていた、彼女が助けてくれたようだあの後何があったのか教えてくれた。
「あんた幸運だ、地元で一番モテたウチに抱えられたんだからさ」
川に落ちた後俺は気を失ってその間シメトが抱えてくれていた、その後倒木に捕まりそのまま岸辺に上がってくれたらしい。
「ありがとう」
「そうそうお礼は大切、お返しのお金も期待してる」
「......俺はお前を庇ったぞ?」
「お礼に助けたろ?」
じゃチャラじゃねぇか!
「......その話は後で、それよりここ何処?」
「うーん、結構流されたかんな......ウチも必死だったから周りを見る余裕なんてなかっし......」
へベルナやパレハが心配しているはずだ。
「とりあえず、近くの町まで......」
「おっと、ウチから離れない方が良いぜ?」
「......なんで?」
「細かな場所はわからないんだがな?凡そ見当がついてる」
シメトは勿体ぶりながら話す。
「......ここはレギア跡地だ、間違いない」
「レギア?」
「は、知らないのかよ、ダメダメだこりゃ」
「知ってるって、レギアってのはあの1000年前の奴だろ?」
確か大陸の中央にあるらしいが、そこまで流されたのか......。
「細かく言うとレギアの周りかな、川の途中で岸に上がれたし」
「なんでレギアってわかるんだ、散策してきたのか?」
「レギアには時々赤い霧が出る時があるって聞いた事があった、赤い霧なんて他じゃ絶対ないだろ?それにリカイオン山の川が下流域のレギアにまで続いてるのは知っていたからね」
だからここはレギアと。
「はぁ、そんな所を」
「あれ、もっと驚かない?レギア跡地なんてヤバいところの典型なんだけど」
「ヤバいって、赤い霧なんていかにもヤバそうだけど」
「レギア跡地は冒険者協会から禁忌指定受けてる地区なんだよ、禁忌の地なんて言われててね、ウチらが此処にいるのバレたら......死刑だってありえるかも」
「死刑ッ!?」
不法侵入くらいで!?
「おぅうるさ......貧民層でもこれくらい常識じゃあ、今までどうやって生きて来たのさ」
禁忌指定の話は聞いた事はあったが、まさかそこまで重い罪だったとはな。
「......ま、知らない人もいるのかも知れないけどな!......とりあえずウチらはさっさと出ないと不味い」
「川に沿って戻るのは......」
「いやぁ、かなり傾斜がきつそうだし現実的じゃない気が」
レギア、レギアなぁ、確か......。
「レギアから出るんだったら南にいかないか?」
「南......確かレギアの南だとアルカディア湾辺りに出るな、そこにあてがあるの?」
「あぁナリアって都市に知り合いがいる」
「ならそこに行くかね、ウチは特に行きたい場所はないのでね」
「方針は決まったな」
「目標はナリアだ!」
何でお前が仕切ってるんだ......。
■
ナリアに行くという方針は良かった、ただ問題は現在位置がわからないという事、そもそも赤い霧の所為で方向感覚がわからない。
とりあえず、シメトがいらないと言った赤黒い短刀を使い木に傷跡を付けて置き迷わないようにしながら生い茂る雑草を刈っていく。
「おいアキラ、どうにかしてぇ」
「もう少し堪えろって、夜になったらどうするんだ」
「くそぉ、乙女が疲れたと言っているのにさ」
シメトは既にバテバテな様子だ。
「......そういやお前、召喚魔法使ってただろ、あれでどうにか出来ないのか?」
「え、あぁ無理無理、ドルクルはあんたにやられたし、ダルチィは一人用だし長距離は無理」
「ダルチィって俺を追ってた時の?」
「そうダルチィは暴れん坊だからねぇ、乗せてもらうだけにもいかないんだ全力疾走じゃないと」
それからしばらくして結局近くの大木で身体を休める事にした、相変わらず赤い霧は視界を奪う。
「......」
折れた剣を見る、流されている間も剣は離さなかったらしい。
「......魔水晶は世界一硬い」
シメトは木の根を枕にしながら話してくる。
「ウチはこういうの詳しくないけど、魔水晶ってのはさ武器に加工できないものなんだよ、昔は出来てたらしいけど今じゃできない硬すぎて」
「レギアは出来てたんだろ」
「......らしいけどさ」
シメトは眠いのか声が小さくなっていく。
「あんたは魔水晶を破壊した......アキラ、アレは他の人に見せない方が良いよ」
「......」
「悪人にも利用される、面倒に巻き込まれるロクな目に遭わないからねきっと......」
「......優しいんだな」
「......」
「......シメト?」
「......すぅ~」
シメトからは静かに寝息が聞こえて来る。
「寝てる......」
『ミュケナイ・ガーディア』を抑えたのも覇王の力のおかげなんだろうな、人に見せない方がいいか......。
「......言われなくともそのつもりだよ、俺は」
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