第1章 【暗闇の蛇】編
第6話 魔法
異世界に転移した藤原晃ことアキラ=フジワラは自身が大量の意識不明者を出した
事件の 容疑者の一人になっている事を知った、アキラは逃走を企てるが失敗。
へベルナ=マギアフィリアに捕まってしまう。
へベルナ=マギアフィリアはアキラは無実であると判断し、実はアキラ=フジワラは自身の旧友であり、今回も自身の為に独断で動いた事にするという設定をアキラに提案し承諾した。
こうして容疑者アキラの偽りの旧友が生まれる事になったのだった。
◆◇◆◇
朝の朝食後の事、ルキウスは用事で屋敷から出ていったがへベルナが来る事は伝えられていた。話すことは俺の身の回りについてだろうか話すこと全くないけどな。
「おはようございます」
相変わらずな眠そうな瞳だが、優しい瞳とも言えるか......
濃い赤紫の髪、先の垂れた大きい紫色の三角帽子にフードが付いた紫色のローブにマント。濃い橙色のブーツに大きな濃い赤色の杖。
そして何やら重そうな本を持ってきていた。
「身体の調子はどうですか?」
「結構良い、これならすぐに動けるようになるかも」
朝起きた時はメイドが回復魔法をかけてくれていた、ルキウス曰く本当なら本格的な回復を使える魔導師にお願いしたかったらしい。
ただ俺の再生力のおかげもあってか、割とすぐに治ってきている、これは変身の力のオマケかな?だとしたら以外な発見だ。
「回復魔法は高度な魔法、ここに回復魔法を使える者がいて助かりました」
メイドにも感謝だ。
「色々と聞いておきたい事がありまして、出身地とか」
......やっぱり聞かれるよな、正直に日本とか言っても信じてくれる気がしないし、この世界の地理もよくわからない。
「そっそれが、俺もよく覚えていなくてな」
「それは、記憶がないと?」
「......それが、あやふやで......」
へベルナにも迷惑をかけるが、俺としても苦肉の策だ。
「......家は?」
「家もないし、身寄りもない、今まではソルテシアの橋の下とかで寝泊まりしてた」
「なるほど......家はない、身寄りもない......出身地もわからない......」
どうしよう、我ながら誰がどう見ても怪しすぎる......。
「怪しさの塊ですね」
「はい......」
「......ふむ」
こんな俺を庇ってくれるなんて、頭が上がらない。
「とにかく、あなたには強くなってもらうしかありませんね、そして自らの手で犯人を捕まえる、そうしない事には疑いは晴れません」
そういうとへベルナはドンッと分厚い、辞書と見間違えるような紫色の本をベッドの上に置く。
「これは?」
「私が厳選した、大変に素晴らしい魔導書です、今のあなたは動けないかもしれませんが、本は読めるはず、これは重宝しますからね、プレゼントしますよ」
ペラペラとめくると図式とか色々書いてあるが、何よりの問題がある。
「......文字が読めない......」
「......へ?」
そんな目を点にされても困る、正直この本が何を書いてあるのかが何も、全然わからない。というかこれ、初心者が読むモノなのか?
「ほう......なるほど......ふぅむ」
へベルナがすごい色々考えている、恥ずかしい。
「......まずは文字から始めますか......」
「はい......」
こうして俺、アキラ=フジワラとへベルナ=マギアフィリアによる勉強会が始まった。
■
「まず魔法というのは――」
「......」
「――でして――」
「......」
「魔力と言われるモノを魔導師は扱うことで魔法を――」
難しい!
教えてくれているのはありがたいが内容が全くわからない、なんとなくはわかったが、そもそも魔力という概念がピンと来ない。
「――って、起きてますか?」
「起きてるよ......」
「それは良かったです、ここからが大切でして――」
しかも、したり顔でそれを説明している。
「肉体から流れる魔力を使い――」
大変ご満悦なようだが、すごく質問しづらい......。
「そも魔法とは魔導士の特権ではなく、当然、剣士が覚えても十分活躍が期待できまして――」
ただ彼女は魔法の可能性を信じているんだろうな、それだけは強く伝わる。
「はっはい、質問!」
「なんでしょう、アキラ」
「実際に見させてください!」
一回じっくりと魔法を見てみたい、戦闘でしかまともに見ていなかったからな、そういえば。
「そう......ですね、では実演をしてみましょう、しかし、もう歩けるのですか?」
「ん?まぁ、走ると腹は痛むが、歩くだけなら」
「回復力が速いですね、それなら、明日にでも実技をしましょうか」
ものすごい速度で進めていく気だ、まぁ、彼女にとってもあまり時間をかける余裕がないのだろう。
「それでは、ついてきてください」
■
「へベルナは俺にばかり時間をかけてて良いのか?」
「?」
「いや、へベルナは冒険者とかやってるんだろ?」
「大丈夫です、いまは冒険に行ける状況ではないですし......」
へベルナは紫帽子のツバで顔を隠しながら歩くから顔が見えない。
「なぁ、本当に――」
「着きました」
へベルナは俺の言葉を遮ると、木材や何やら積んである庭。
「本来はルキウスが剣術の練習の為に使う場所ですが、まぁ勝手に使いましょうか」
「え、いいの?」
「大規模な魔法は使いませんから」
杖を先にある木製人形に向けると赤いオーラが纏い始める。
「今から使うのは火属性の基礎魔法の一つ『ファイアボール』です」
基礎魔法というと初心者の魔法と言う事か、かなりゆったりとメラメラとした魔力が杖の先に集まりはじめる、俺にわかりやすく遅く発動してくれているのだろう。
「魔力の流れ、熱い感覚を操作して、イメージします」
杖の先から火の玉が現れる。
「『ファイアボール』」
その瞬間火の玉は木製人形に目掛けて飛んでいくと
バンッ
オレンジ色の光が周囲を照らした
「アキラもやってみてください」
彼女の杖を借りて、魔力を流すイメージを――
「――」
杖から先に熱い魔力を流して――
火の玉を飛ばす――
「『ファイアボール』」
火の玉は飛んでいき、焼け焦げた木製人形を吹き飛ばす。
「――やった、できた!見たか、見たかよ!?へベルナ!」
「えぇ、見ていましたよ、素晴らしい出来でしたね」
へベルナを思わず見るとにこやかに笑みを浮かべて拍手をしているのを見て、急に恥かしくなってきた、いや、人生で初めて正攻法で魔法を使えたのが嬉しすぎて......
「っコホン、そ......そんな事あるかぁ?へベルナの方がすごかっただろう?」
「......さっきまでの喜び様はどこへやら......アキラに座学はあまり向いていなかったのかもしれませんね、実技をメインにしましょうか」
■
それから魔法について色々と教えてくれた。
「基礎魔法は基本的に誰でも覚えられる魔法の事です、そこから発展していって最終的に我流の魔法に発展していくのです」
「我流の魔法......」
火の玉を指先に浮かしながら、説明をしている。
へベルナが前に使っていた『
「攻撃魔法、補助魔法、回復魔法、召喚魔法、大体はこの4つでしょうか......まぁ一番簡単なのは攻撃魔法ですね」
へベルナはウロチョロと目を瞑りながら歩き、説明していく。
「相手を気にする必要ないですからね攻撃魔法、仲間に使う魔法は難しいです、召喚魔法は......少しややこしいので割愛します」
魔法と一括りにいっても全然違うのか、まぁ、俺も関心あるの攻撃魔法だし、いいか、召喚魔法は気になるけど......
「へベルナは攻撃魔法以外は使えるのか?」
「......攻撃魔法だけです、召喚魔法は少々ですが出来ます」
「おぉどんなの?」
「すみません、召喚魔法は得意ではないのであまり使わないようにしているのです」
へベルナのような魔導士でも使える魔法は限られるのか、とするとあのメイドはかなりの魔導師か、ルキウスは大物だから、メイドもかなりの使い手を雇ってるのか。
「魔法はやっぱり難しいんだな」
「そうです」
そういえば。
「あのさ話少し変わるけど、ルキウスも魔法は使えるのか?」
「えぇもちろん、剣士であっても魔法は使えます、ルキウスは優秀な魔導師にもなれるほどの才ある人物ですね」
ルキウスと言えば......
「そういえば......へベルナとルキウスってどんな関係なんだ?」
気になる、ルキウスの別荘をほぼ貸し切りにしても許されるなんて、ただ知り合いってだけじゃあり得ないだろう。
「幼馴染......という感じでしょうか」
「へベルナは27歳だっけ?」
「......女の子の年齢をそうズケズケと言うものではないですよ?」
「以後気をつけます」
「気を付けてください」
へベルナの睨みつける瞳、どこからどう見て27歳には見えないし、本人に自覚があるのかはわからないが、へベルナは精神も15歳に引っ張られてると思う。
「まぁルキウスは23歳ですから、幼馴染というよりは弟見たいなものですね」
「ルキウスと俺って同い年だったのか......」
マジかぁ、あの騎士と俺が同じ年って......。
「なんか、いいな剣士......俺も剣とか使ってみたい......」
「やれやれ......なら早く魔法を覚えてください、剣と魔法を使えるようになれば、冒険者社会でもそれなりに上位に行けるでしょう」
そうだ、俺は早く強くならないといけない、へベルナに時間を無駄に使わせてるとか罪悪感あるし。
「ただルキウスのようになるのは大変ですよ?」
「いや別にルキウスのような剣士を目指してるわけじゃ......」
「いえ、目標は高く設定しなくてなりません」
近くに置いてあった剣を勝手に持ち始め、振ったり払ったりする。
「彼は剣のみならず、攻撃魔法、いえ様々な魔法が使えます......あなたが目指したいのは魔導士ではなく、魔法剣士でしょう?ならルキウスを目指すのが良いかと......」
そうはいってもこの世界で知ってる奴なんてへベルナとルキウスくらいだからなぁ。
「目標は保留で」
「はぁ、まぁ無理強いはしませんが......」
それかもへベルナとの二人で魔法の授業と特訓が繰り返し行われた。
■
アキラはいつものように基礎魔法を撃つ。
「『ファイアボール』」
彼にとって一番撃ちやすい魔法の一つが火属性『ファイアボール』だった。
「......」
アキラの将来性を見極める。
彼が将来魔導士になるかどうかは本人が決める事、彼女も別に強制するつもりはない、剣士になるのならそれも良いと考える。
日々日々『ファイアボール』の火力は増していく、どうやらアキラには魔法の才があったようだ。
アキラの容疑が晴れていない現状、ルキウスの別荘に居続ければ迷惑もかかる。
「(そろそろ、冒険に出させますか......)」
私のそんな思いも知らずにアキラは自らの魔法の出来を一喜一憂していた。
■
もう怪我は回復して普通に歩けるようになってきた頃。
「冒険?」
「はい、冒険です、といっても遠出はしませんが」
へベルナは突然そんな事を言い出したのは驚いたが、へベルナも時間をかける訳にはいかないから実戦を経験してみよう、ということか。
「本来ならギルドに加入してから受けた方が良いのですが、そんな状況ではないですからね、私が代わりに受けた依頼ですよ」
へベルナは白っぽい紙を俺に見せてくれた。
「ん~と、森、現れる......す......らい......む?」
少しは覚えてきたつもりだったがまだまだだ、全然わからない。
「森に現れるスライムからスライムゼリーという素材を取ってくる依頼です」
「俺って外に出ても大丈夫なのか?」
「私の旧友という設定は外部に通しているので大丈夫なはずですよ、もしもの時は守りますからね」
ホントに大丈夫か?
「危険度E級なのでアキラでも問題ないはずです」
「何級までになる必要があるんだ?」
「C級相当にはなってほしいですね」
俺が訓練を受けているのは旧友設定に相応しい強さを身に着けさせる為だった。
「ひょんなことからコンビを組んだ過去があるという設定ですから......」
へベルナはやれやれと首を振る、まぁ、だから別荘に籠ってる状態なんだよな、俺。
「あぁ、それと、はい」
へベルナから何かを渡された。
「これは?」
ずっしりしてるな、うん?これは......
「剣です、杖はなくても魔法は使えますが、剣士は剣がないと戦えませんからね」
「剣士になりたいっていった事覚えててくれたのかぁ!」
「まぁ、覚えてますよ......ほら、早く行きますよ!」
へベルナは帽子のツバで顔を隠しながらさっさと部屋を出てしまった。
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