千四百十八話目 帰ってね

 ゴースト相手には魔法がきく。

 どうせ物理的に保存できるものでもないから、形を崩すなどの心配をする必要もない。次の動きがないようであれば先制攻撃をしようと思ったところで、青白い影はゆっくりとハルカの方を見て、腕を上げて指差してきた。

 咄嗟に正面に障壁を張ったハルカだったが、ゴーストから攻撃らしい攻撃は飛んでこない。そうしてゴーストがそのまま指先を壁の方へ向けると、今までと同じように石の壁が音を立てて開き、通路が出来上がった。


「……あの、これは?」


 思わずハルカが問いかけると、ゴーストはハルカをじっと見つめてから、次に通路を見て、そのままスッとその場から消え去った。

 専門家であるジーグムンドたちは首をかしげて固まり、モンタナは何かが見えているのかゆっくりと天を仰いでいく。


 全員が黙り込んでしまったところで、ハルカは助けを求めるようにヨンの方を向いた。


「あの……」

「いや、全然わかんないって、俺に聞かないでよ」

「でも、あの」

「もう帰れってことじゃね?」


 アルベルトが動作から受け取れるそのままの意味を伝えると、モンタナも同意して頷く。


「最初怒ってる感じだったですけど……、最後なんか悲しそうだったです」

「いえ、でも、なんか……、ええっと……」

「調べて帰るぞ」


 ハルカがしどろもどろに何かを言おうとして何も出てこないでいると、ジーグムンドが仲間たちの背中をポンと押して部屋の調査を再開する。とりあえずここまでわかってしまえば遺跡の全容ははっきりしたようなものだ。

 あとは帰り道にアンデッドがいるかどうかくらいの話だった。


 調査を終えて通路を進んでいくと、クエンティンのマッピング通り、以前ジーグムンドたちがアンデッドに追い回された広いホールに出ることになる。今日はそこにいたアンデッドたちは全て出払っているようで、なにもおらず素通り。

 警戒しつつも結局そのまま素直に遺跡から抜け出すことに成功した。


 全員が外へ出たところで、遺跡の入り口に蓋をしてその上にジーグムンドがどっかりと座る。


「俺はここを見張る。ヨン、報告を頼む。遺跡の全容は分かった。改めて出直して、今度はしっかり調査をするぞ」

「よしきた任せろ。とりあえず貰ってきた遺物いくつか見せりゃ、ギルドも納得してくれるだろ」


 ハルカがまとめた刀剣のうちいくつかを持ち帰ってきたヨンは、うっきうきで歩き出す。

 発見した遺跡が十分に価値のあるものだとわかれば、向こうしばらくはここの調査権利はヨンたちの手中に収まることになる。何も成果を出していない状態であったり、放置しすぎたりすると、自動的に権利が競売にかけられてしまうのだけれど。

 

 今日の調査までは、実はこの遺跡の調査権は宙ぶらりんだったのだ。

 本当は実績を出すまで存在を秘するところを、強力なアンデッドがいたからジーグムンドが報告せざるを得なくなり、結果早い者勝ちのような状況になってしまっていたわけである。


 あとは権利がはっきりするまでは、よそ者がここに立ち入ることをジーグムンドが防いでおけば一先ず安心であった。


 暗い遺跡を歩き、ようやく外へ出ると空はすっかり暗くなっていた。

 どうやら遺跡の中に丸二日くらいこもりっきりだったようだ。

 流石に遺跡前の広場にもそれほど人の気配はない。

 見張っているのではないかと思っていたギドの姿もないのは意外だった。


「こんな時間か。パッと飲みたいところだけど、ジーグがかわいそうだから我慢だな。俺たちは朝一でギルド行くけど……、ハルカたちも一緒に行くよな?」

「ええっと……、はい、そうですね」


 二人に軽く確認をしたところで、了承。

 一応遺物が盗まれないようにとジーグムンドたちの拠点まで同行することになった。街の外れにある倉庫のような拠点が近づいてきたところで、何やら妙な音が聞こえてくる。


 「……なんだ?」


 早足になったヨンを追いかけて角を曲がると、何やらヨンたちの拠点に大穴が開いているのが見えた。その拠点の中でも外でも複数の人物が戦闘を繰り広げている。

 というか、戦闘はほぼ終わりかけの状態であった。

 ちょうど大穴が開いたおかげで、月明かりが入っているところで、誰かに馬乗りになって拳を振るっている人物のシルエットに、ハルカたちは見覚えがあった。

 

 小さな体、月明かりに照らされて見える金髪と修道服。

 言葉にすれば幻想的であるけれど、実際のその姿は凄惨であった。

 振り上げたこぶしにはテラテラと光る血液、それが振り下ろされるたびにその彩は追加されていく。

 すでに殴られている人物には抵抗の意思すら見えず、意識があるかすら微妙なところだった。


 外でふわりと大柄な男が舞って、ボキリという音と、悲鳴が夜空に響く。

 その向こうに姿が見えたのは、こちらも見覚えのあるお団子頭。

 コリンが大男を投げ飛ばすついでに肩の骨を外したところだった。


 よく見れば別のところでは、前衛のカオルが人をバッサリと切り倒し、その隙に襲い掛かってきた他の男が火球に包まれて地面を転げまわっている。


「ひ、他人んちでなにしてんだよ!」


 ヨンが思わず叫ぶ。

 混乱しすぎて冷静になったハルカが、心の中で突っ込むところはそこではないと思っていると、ちょうど敵の膝辺りを踏み砕いたコリンがハルカに気が付いて声をあげる。


「あ、ハルカおかえり! こいつらボコボコにしていいから!」


 やるまでもなく、ほぼ壊滅状態である。

 ハルカは一応逃げ出そうとしている者を数人障壁の中にとらえつつ、レジーナが次の犠牲者を出そうとヨンたちの拠点の中へ消えていくのを追いかける。


「おらぁ! 逃げてんじゃねぇ!」


 光球を出したところで、見えたのは、レジーナに追いつかれ、恐怖の表情を浮かべた顔面を壁にたたきつけられた男の姿だった。ハルカは慌てて数人の知らない冒険者らしきものたちを障壁で囲い込み、捕獲、あるいは保護するのであった。

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