千四百七話目 話は聞く

 一行が戻ってきたのを察して逃げていく足音が聞こえ、ハルカは考える前に足を動かした。


「ちょっと先に行きます」


 それに合わせて他の面々も駆け足になる。

 ハルカが急いだ理由は、先にたどり着いてレジーナが暴れるのを抑えるためではない。

 走りながら光の球を飛ばし、先に角を曲がらせると小さなどよめきが上がる。

 攻撃が飛んできていると思ったものが慌てたのだろう。

 角を曲がって集団が逃げていくのを目視したハルカは、即座に障壁を展開して逃げ道を塞いだ。


 やりたかったことはこれだ。

 無駄な追いかけっこはしたくない。


 ここは遺跡だ。

 ハルカには、遺跡で後をつけてくる者たちの対処の仕方が分からない。

 ただ、少なくとも秘密とされる発掘現場に向かうのに、こっそりとつけてくるような輩がろくでもないことは分かる。だからこそヨンは怒っていたし、ジーグムンドだって話をつけるべく歩き出したのだ。

 

 遺跡のことは遺跡の専門家が片付けるべきである。

 自分がやるべきことは、不届き者を逃がさないことだと割り切っての行動だった。

 外を旅する冒険者であれば、許可なく後をつけてくる冒険者など、殺されても文句は言えないことは、つい先日の出来事でも分かる通りだ。


 突然退路がなくなった冒険者たちは、慌てて通り道を探していたが、そんなことをしているうちにジーグムンドたちが歩み寄ってきている。

 レジーナがいつもの調子で突っ込んでいこうとしたのを、ジーグムンドが「待て」と言い、ハルカも「ちょっとだけ待ってください」と言って制する。


 ジーグムンドの制止を振り払って進もうとしていたレジーナが、舌打ちをしてその場に止まった。あとをつけてきていた者たちは引きつった表情をしていたが、その制止の言葉に僅かにほっとした表情をした者もいた。


 人数は八人程度。

 全員が同じパーティではなさそうだ。


「……い、いや、なんか急に退路がなくなって困ってたんだよ。お前らも困るだろ? これ、どうしたもんだろうな」


 不可視の壁を叩きながら白々しい言葉を吐く男。

 まるでたまたまこの通路にいたと言わんばかりの演技だ。

 その大根役者っぷりはどこに行っても通用しないだろう。


「くだらない言い訳をするな。なんのためについて来ていた」

「いや、いいわけじゃねぇって、本当に通れねぇんだよ!」


 通れたのならばとっくに走って逃げ去っている。

 他の者から出た言葉は真に迫っていた。

 最初からこっちが話していればもうちょっと説得力もあったかもしれない。

 もちろん、その壁が本当に偶然発生したものであればだ。


「言い訳はそれでいいんだな。お前ら、あとをつけて何をするつもりだった。良いものが見つかったら俺たちを殺して奪うつもりだったのか?」

「そんなことするわけねぇだろ! だから本当に壁が……」

「……その壁は私が魔法で作ったものです。元からあったわけじゃありません」


 見苦しい言い訳が続くので、ハルカが仕方なくその逃げ道を塞いでやる。

 すると、喋っていた者たちは目を泳がせた。

 ある者はありもしない逃亡経路を探し、ある者は自分の武器に目をやった。


「正直に言え、正直に言わなければ……」


 ぎゅっと大鎚を握ってにじり寄ったジーグムンドの巨体を恐れて、一人の男が悲鳴を上げるように叫んだ。


「た、ただ、新しい遺跡の場所を知りたかっただけだ! もうやらんから許してくれ!!」

「……そうか」

「ざっけんな、遺跡を探す冒険者ならそんなことしちゃいけないってよくわかってるはずだろうが! ジーグ、ぶっ殺せ!」


 ヨンがぎゃーぎゃーと騒ぐと、ジーグムンドは首をゆっくりと横に振った。

 その穏やかな仕草に、追い詰められている者たちはまた胸を撫でおろす。


「無駄だ。こいつらは、普段から遺跡に潜っている冒険者じゃない」

「だからって許せってのか!?」

「そんなことは言っていない。殺さんが、許さん」


 ジーグムンドの大鎚は、武闘祭から一新されてさらに大きなものになっている。

 片側が鋭いスパイクのように、もう片側が平たい面に。

 その面は直径が一メートル近くはある、殴られたらどう控えめに考えてもただでは済まなそうな代物であった。

 先ほどまで大丈夫なのではないかと油断していた男たちはさっと顔色を悪くした。

 

 他人の領域に土足でずかずかと踏み込んできたのだから、何もなく帰れると思うのが間違いだ。


 そこから先は蹂躙だった。

 相手も武器を抜いたが、それがまた良くなかった。

 ジーグムンドが前に出れば、これでもういいのだろうと判断したレジーナもそれより先に前に出る。

 一見か弱そうに見えるレジーナだが、凶暴性はぴか一だ。

 反省して黙ってボコボコにされるならば、多少手心は加えられたかもしれないが、武器を構えてしまってはお終いである。


 あっという間に全員がただでは済んでいない状態にされてしまったが、流石のハルカも止めることはしなかった。


「ったく、けちがついた。一度戻ってこいつら外に捨てるぞ。鶏どもめ……、こんな時ばっかり遺跡に入ってきてさぁ」

「そうだな。……困ったものだ」

「二度とこんなことやらないように、外の連中にもこの状態見せておいた方がいいよね」

「っていうかさ、こいつら自分の意思で来たのかな? なんかチームばらばらだし、どっかに命令されたか依頼されたかしたんじゃね?」

「尋問しましょっか」


 ジーグムンドのチームは皆すっかりお冠である。

 倒れて呻いている冒険者たちを囲って怖い相談を始めている。

 どうやら一度外へ戻るつもりではあるようだ。


「ほっといて先行かね?」


 アルベルトが提案するも、全員が一斉に首を横に振った。


「悪いがこっちを先にさせてくれ。でないと遺跡に入った時に後ろから襲ってくる奴がいるかもしれん。場所によっては罠があって、あとから来た奴がそれを踏んだせいで先行組に被害が出ることもある」


 ジーグムンドが長くしゃべると妙に説得力があり、アルベルトも頭をかいて「そうかよ……」としか返事ができなかった。

 難しい話をされると弱い。


 話を聞くとなお一層、この冒険者たちが遺跡探索におけるタブーを犯していたことが分かる。

 ここはやはり遺跡探索に慣れた者たちの判断に従うということで、ハルカたちはいったん口を閉ざして方針が決まるのを待つことにした。

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