千十二話目 最近の状況
カーミラがユーリを膝に乗せ、ぴったりとハルカの横に寄り添う。
正体がばれたという話を事前にしておいたのだが、カーミラは意外なことにケロッとしていた。
もともと人族に対する忌避感が薄いうえに、それなりに長い間拠点で一緒に過ごしてきた相手だ。ばれても仕方ないか、くらいで緊張はしていないようだった。
動揺が少ない理由をもう一つ上げるのであればそれは、ばれたとしてもハルカが決して自分のことを見捨てることがないだろうと、これまでの付き合いで確信をしているからだ。
伊達にお姉様といって慕っていない。
「カーミラ=ニーペンス=フラド=ノワール。吸血鬼の王たる血族にして、迷いの森の主とは私のことよ」
「格好つけんな」
胸を張り顎を上げ目を細めたカーミラには威厳があった。
ハルカにくっついており、ユーリが膝の上に乗っていなければであったが。
「いいじゃない、めったにないことなんだから……」
突っ込みを入れたアルベルトに、カーミラは拗ねた顔を見せる。
そこには既に千年生きた吸血鬼らしさは見えなかった。
「イーストン=ヴェラ=テネブ=ハウツマン。半分吸血鬼、半分人の混血。外で公的にはイースって名乗っているから、今まで通りそう呼んで」
続いて名乗ったイーストンにエリは目を丸くする。
「もしかしたらって思っていたけど……、混血……?」
「そうだよ。父が吸血鬼で母が人。勘違いしないで欲しいけど、二人はちゃんと愛し合っていたからね」
「あ、そう……。イースさんの口から愛し合っていたとか言う言葉が出ると、なんだか衝撃ね」
別のところが気になってしまったエリが、変な顔をすると、やや厳しい表情をしていたイーストンも肩の力を抜いた。
エリは胸のあたりに手を当てて、背筋をピンと伸ばす。
「じゃあ改めて私も。二級冒険者のエリ=ヒットスタンよ。ハルカの友人で、いつか冒険者の学校を開くのが夢。この際だからはっきり宣言しておくけど、私はオラクル教の教えには興味ないわ」
「こちらでもできる限りばれないようにやっていくつもりです。エリもあまり気にせず今まで通り接してください」
「そうさせてもらうわ。……でもそうなると、〈オランズ〉に騎士団の駐屯地ができるのは面倒ね。すでに結構な数の騎士と、神殿騎士がやってきているらしいわよ。もちろん冒険者と商人の国だから、あまり好き勝手はできないでしょうけど」
しばらく街に顔を出していないので、今どうなっているかはちょっと分からない。
騎士たちと共に、【レジオン】の双子が来ている可能性もあるから、早めに顔を出しておきたいところだ。
そんなことをハルカが考えていると、モンタナとコリンから同時に「ハルカ?」と名前を呼ばれる。先延ばしにしているが、エリに話すべきことはこれだけではない。
「なに? ハルカも何かあるの?」
「ええ、まあ……。…………暗闇の森の先には
「ふぅん、歩いて数日ってとこかしら?」
「はい。元々リザードマンの集落があったところで、今はハーピーも共に生活しています」
「なるほどね」
ハルカの説明を聞いてエリは納得するように頷いた。
「すでにそことも交流があるってことでしょ。もう何を聞いても驚かないわ」
「いえ……そのですね」
「何?」
「あとですね、山脈を越えるとまた森がありまして、その先には巨人族が住まう平原があります」
「ああ、今回の遠征で通ってきたんでしたっけ?」
ハルカはここからずっと東へ進んでいった場所の説明を、順にエリに告げていく。結論を伝えるためのハルカなりの心の準備だ。
「その先には砂漠があってリザードマンがいます。さらに草原にケンタウロス。そこを抜けた沿岸沿いには今回吸血鬼が拠点としていた〈ノーマーシー〉という街があり、今はコボルトと人魚が住んでいます」
「……随分と交流が多いのね」
いよいよ怪しい雰囲気を感じ取ったエリが、目を細めてじっとハルカを見る。
早く結論を言いなさいよと急かされている気分だ。
「……その、今お話しした土地の、まとめ役という形でですね、王様という位を頂いてまして。あ、別に何をするわけではないんですが、一応私がお願いするとみんな話を聞いてくれるような状態だってだけなんですけど……」
小声でぼそぼそと言い訳をするハルカに、エリは額を抑えて俯いた。
それから顔を上げると、小枝を拾って地面に大まかな北方大陸の地図を描いたエリは、枝をモンタナに渡して言う。
「今言った範囲、囲ってもらってもいい?」
「いいですよ」
がりがりとモンタナが線を引くのを黙って眺めて、エリは眉間の皺を深くしていく。
「……別に私は、ハルカが何であっても友達には変わりないのだけど」
ハルカの傘下の土地と他の国の広さを見比べて、エリはさらに嘆息した。
「これは、是が非でも騎士団を〈オランズ〉に招くべきじゃなかったんじゃないかしら?」
「そ、その時はまだ、手前のリザードマンの里と仲良くしていただけなんです……」
「えぇー……、ちょっとこれからは私ももうちょっと騎士の動向に気を配るようにするわね」
「すみません、お願いします……」
エリは指先で自らの眉間の皺を伸ばして、気を取り直すように「まぁ……」と言って凛々しい顔をする。
「まぁ、まぁまぁ! 仲良くできてるっていうのなら、資源も豊富でしょうし暮らしも豊かになるでしょ。騎士団さえ何とかして……、他の国と争いにならなければ別に悪いことなんて……」
まぁの数が立ち直るのに要した気合いの量を示していた。
それから前向きな考えをいくつか出して、それがなかなかに難易度が高いことを理解して、尻すぼみになった。
「……ま、何とかなるでしょ。というか、もうちょっと色々加減しなさいよね、ハルカは」
そうして最後に思考放棄したエリは、笑ってそう言ってみせる。
あきらめの境地に至らせてしまったことを申し訳なく思いながらも、変わらぬ態度にハルカはそっと胸をなでおろすのであった。
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