五百八十一話目 旅に出る理由

「へぇ、帰っちゃったんだ。ちょっと見てみたかったかも」

「はい。悪い人たちではなさそうでしたけどね。近くへ行けば寄るかもしれませんが、なにせここから二月以上かかるそうですから」

「ナギに乗せてもらってまっすぐ行っても、片道二週間かな。行ったことの無い土地だし、ナギと一緒だと今度は街に立ち寄るのが難しいかもね」


 火を囲みながら仲間たちと先ほど会ったことを共有する。

 相手が破壊者ルインズだからといって、反応が変わる面々ではないので、その中にラミアがいたことも正直に話していた。


「ノクトさんは、自由都市同盟知ってるです?」

「ええ、カナさんが随分前に作った同盟ですね。正確には彼女が主体ではないのですが、彼女の活動を元にして作られたことには違いないです」

「どんな奴なんだ、そいつ」

「そうですねぇ……。性格はハルカさんに近いと思いますよ。ハルカさんよりも甘いくらいです。よく悩み、同情し、傷つき、倒した相手に涙するような人です。ただまぁ、戦い方は勇猛ですね。その辺りは冒険者らしいと言えるでしょう。【深紅の要塞クリムゾンフォートレス】と呼ばれていますよぉ」

「どんな風に戦うんだ?」


 アルベルトはワクワクしながら身を乗り出した。こういう話になるといつも以上に押さなくなる。


「それを言うのはずるい気がしますけどねぇ。そうですね、槍を四本使います、とだけいっておきましょうかぁ」

「四本!? どうやってだよ!」

「ふへへ、どうやってでしょうねぇ? 会いに行ってみたらいいんじゃないですかぁ?」

「なぁなぁ、教えろって。どうやってそんなに槍つかうんだ?」


 アルベルトが立ち上がると、楽しそうなノクトは障壁に乗って空高く飛び上がって逃げる。


「なんでもかんでも教えてもらうと面白くないでしょう?」

「いや、でも気になるじゃねぇか!」

「君は冒険者なんですからぁ、気になることは自分の足で調べてくださぁい」


 ノクトはそのままふわーっと動いて、屋敷の方へ戻って行ってしまった。

 ほんの少しだけ教えて興味を煽っておいて、答えを言わないのは割と意地悪だ。


「南、南かぁ。遠いんだよなぁ。そろそろ旅に行きたくねぇ?」

「わかりやすいよね、君って」


 呆れたような顔をしたのはイーストンだったが、ハルカにもアルベルトの気持ちもわかった。

 冒険をするために冒険者になったのだ。拠点ができたとはいえ、ずっとそこに留まっているのはアルベルトにすれば不本意だろう。精神年齢が四十を過ぎて、この世界での寿命が恐らく非常に長いハルカや、イーストンと比べるのは酷というものだ。


 貴重な十代の四か月を、よく訓練に費やしてきたともいえる。ハルカだって、いつも以上に毎日の訓練を積んできた。ここに戻ってきた時よりは、さらに正確に素早く魔法の展開ができるようになっているし、最近のノクトには「やっぱり実戦が大事ですからねぇ」としきりに言われている。


 そんなことを考えると、先ほどのノクトの煽りは、早く旅に出なさいというメッセージも込められていたのかもしれないと、ハルカは思うのだった。


「……旅、そろそろ考えてみましょうか。明日買い物して、いい依頼がないか聞いてきます。皆も行きますか?」

「行くー!」

「僕は留守番で」


 コリンが返事をして、アルベルトとモンタナは頷く。

 腕を組んで少し考えていたレジーナは、最後に一言だけ答えた。


「行く」


 この間のようにまた突然何かがあってそのまま出かけてしまう可能性を考えての結論だった。

 今まで一人で旅をしてきたレジーナは、仲間たちと出かけるということに興味があったし、おいて行かれることを考えるとやはり少しもやもやするのであった。



「依頼ですか……。旅に出るようなものは特にないんですよね」


 受付のドロテに確認してみるが、そう都合よく護衛の依頼はないようだ。あったとしても依頼料があまり芳しくない。依頼掲示板を見てあれとかこれとかは、と尋ねてみると「あなたたちが受けるような依頼ではないでしょう」と一蹴されてしまった。


 モンタナがレジーナの後ろに隠れているのが少し気になりつつも、ハルカは依頼掲示板にもう一度目を通す。

 別に依頼料が高い必要はないのだけれど、だからといって適正な他の冒険者の依頼を取り上げるような真似も気が引けた。


 受付前でみんなして悩んでいると、本を見ながら歩いているイーサンが、ハルカたちの方に目もくれないで通り過ぎていく。

 そして数歩進んでからピタリと止まって振り返った。


「ああ、丁度良かった。なにやら近いうちに〈プレイヌ〉へ【ディセント王国】の女王様が来るらしいぞ、というのを伝えに行こうと思っていた。伝えたからな」


 伝言なんて支部長のやるようなことではない。

 恐らく『何もしないのならいって来てください』とでもラルフに言われて追い出されたのだろう。それだけ言うとすぐに回れ右して、元来た道を戻って行った。


「……とりあえず、行きましょうか。多分あちらもそれを望んでいる気がしますし」

「そうだねー、ノクトさんも連れていこうね」

「来ますかね……」

「来るか来ないじゃないよ、連れて行くんだよ!」

「俺も手伝う」


 ハルカが首をかしげると、コリンが張り切って言った。珍しくアルベルトが協力的なのは昨日の仕返しだろうか。

 とにかく、国内ではあるが、出かける用事はできた。〈プレイヌ〉へ行けば、また違った用事があるかもしれないし、ここまで来たのがまるで無駄ということもなさそうだ。


 冒険者ギルドを出て、大通りを進んでいく。

 いつもと同じ光景を見たことのある人たちに声をかけられながら進んでいたハルカだったが、どうもいつもと違う雰囲気を感じていた。

 視界の端に何かちらついたような気がして、首をたまに振って歩いているとモンタナに声をかけられる。


「ハルカ、ばれるですよ」

「……ばれる?」

「ついて来てる人探してるんじゃないです?」

「誰かついて来てるんですか?」

「気づいたんだと思ってたです……。あまりきょろきょろするとばれるです」

「あ、はい」


 仲間たちもどうやら何かがついて来ていることは分かっているらしく、特にレジーナの眉間に刻まれた皺が偉く深くなっているのが分かった。

 いつも不機嫌そうなので、周りからは分からないが、いつも顔を見ているハルカにはわかる。おそらく何者かわからない追跡者に相当いら立っている。


「あっちの路地に入るです。途中で別れて、挟み込むですから」


 モンタナの指示に従って路地裏に入り込んでいくハルカたち。

 何食わぬ顔をしてついてくるものが数人、少し遅れてその角を曲がってくるのであった。

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